こんにちは!データサイエンティストの青木和也(https://twitter.com/kaizen_oni)です!
今回の記事ではスタートアップ必見の1冊「LEAN ANALYTICS スタートアップのためのデータ解析と活用法」を読んで、本書の全体を通してのメッセージを概観した後に、私が本書から得た学びについてまとめていきたいと思います。
私のように企業内でデータを活用した意思決定の高速化を行いたいと考えている方や、スモールビジネスを始めているもののどのような指標を見ればビジネスが健全に回っているのか分からない、というお悩みを抱えた方におすすめの1冊です!
ぜひ本レビューを読んで、本書のイメージを固めていただけると幸いです!
本書の概要
本書はリーンアナリティクスとは何かをまず解説しつつ、実際にスタートアップを起こす際のスタートアップの方向性の決め方から各ビジネス、各フェーズにおいてどのような行動をし、どのような指標を追うべきかを豊富な事例とともに教えてくれるスタートアップ企業家必見の1冊です。
一方で、データアナリスト・データサイエンティストにとっても有用で、新たなに参画した案件が現在のどのフェーズに位置し、どのデータを集めることで次のステップに進めることができるのかを知ることができます。
なお、私が本書を読むきっかけは風音屋の課題図書として掲載されていたことがきっかけです。
本書の構成
本書の構成は以下の4部構成になっています。
- 自分にウソをつかない
- 今すぐに適切な指標を見つける
- 評価基準
- リーンアナリティクスを導入する
部、という単位で分けると上記のような構成なのですが、本書は31章あるうちの、15章が第2部、9章が第3部と真ん中の部が重ための構成となっています。
そのため、序盤はあっさりと感じるものの、中盤から怒涛の情報量が押し寄せてきて、第4章がプロローグに思えるような、そんな読後感がある1冊です。
各部の内容をざっくりと追っていきましょう。
第1部:自分にウソをつかない
第1部第1章は「みんなウソつきだ」というタイトルとともに以下のような1節で始まります。
あなたは思い込みが激しい人だ。そのことを自覚しよう。
誰にでも思い込みはある(もちろん程度の差はある)。最もひどいのは起業家だ。
アリステア・クロール/ベンジャミン・ヨスコビッツ『LEAN ANALYTICS』(O’RELLY JAPAN//2023) 第1章 みんなウソつきだ P2
スタートアップの掲げるビジョンというのは現実にはまだなし得ていない妄想を披露してる、というのが著者の主張です。
そして、「ウソ」との対比で登場するのが「データ」です。
そのような先行きの見えない不確実な未来を現実のものとするために、起業家は各成長フェーズにおいて、データから超重要な指標を引き出し、監視し、ビジネスの舵取りを行おうというリーンアナリティクスの概念を説明してくれるのが第1章の主な役割です。
第2部:今すぐに適切な指標を見つける
ここからが本書の本領発揮の部分となります。
第2部では次の2段階を経て解説が進んでいきます。
- 世間一般に知れているスタートアップのフレームワークから「リーンアナリティクスのステージ」という本書のコアとなる概念を抽出する
- 各ビジネスごとにビジネスの発展の仕方や顧客の具体的な行動を考え、考慮すべき指標とその指標のどのような点になぜフォーカスすべき指標なのかを解説する
- 「リーンアナリティクスのステージ」の各ステージにおいてどのようなことに注意をし、次のステージへと進めていくべきかを解説する
多種多様なフレームワークの「ここが肝だ」という部分を「リーンアナリティクスのステージ」という形で抽出する手腕についても驚きですが、何より2段階目の各ビジネスごとの解説の濃度に腰を抜かします。
ちなみに本書で解説している各ビジネスとは以下6つです。
- ECサイト
- SaaS
- 無料モバイルアプリ
- メディアサイト
- ユーザー制作コンテンツ
- ツーサイドマーケットプレイス
これらそれぞれに追うべき指標とその注意点、顧客の視点からなぜそれらを追うべきかの解説がついているのです。
そして第3段階でいよいよ「リーンアナリティクスのステージ」の各ステージにおいて、何に注意をして、どのようなデータを集めて、どのような指標を見ながらビジネスを進めていくべきか、という解説を行っていきます。
第3段階においても信じられないほどの解像度で解説がなされており、なおかつスタートアップほど自身がどの段階にいるのかをデータから確認した上で慎重に進めなければならないのだな、ということを実感させられます。
第3部:評価基準
この第3部では、各ビジネスにおいて「リーンアナリティクスのステージ」を当てはめた時にそれぞれのステージでどのような指標を追うべきかという答えに近い(それでいて答えではない)ところまで解説してくれています。
本書が解説しているビジネスを実行している起業家の方には、自分の現在地を知るためにも、自分の現在地を確認するための指標を知るためにも、本書を常に小脇においておくことをお勧めいたします。
本書から得た学び
私が本書から得た学びは以下の3つです。
- 追うべきでない「虚栄の指標」を追わず、追うべき「本当の指標」を追おう
- 追うべき指標はビジネスがどのステージにいるのかによって変化する
- 企業をデータ駆動に変えるためには最重要課題ではなく2番目に重要な課題に対してデータ分析を適用する
順番に解説していきたいと思います。
追うべきでない「虚栄の指標」を追わず、追うべき「本当の指標」を追おう
指標を見るたびに「これまでと異なる行動ができるだろうか?」と自問しよう。この質問に答えられなければ、指標を見直すべきである。組織の振る舞いを変える指標が分からないのであれば、それはデータ駆動であるとは言えない。データの泥沼でもがき苦しんでいるだけだ。
アリステア・クロール/ベンジャミン・ヨスコビッツ『LEAN ANALYTICS』(O’RELLY JAPAN//2023) 2章 スコアのつけ方 / 2.3 虚栄の指標と本物の指標 P11
本書で挙げられている例としては「合計登録者数」があります。
この指標は(基本的には)右肩上がりで見ている分には気持ちのいい指標かも知れませんが、社員のモチベーションを上げる以上の効力をもたらさない可能性が高く、本書でいう「虚栄の指標」と言わざるを得ません。
一方で「アクティブユーザー率」のような日々のユーザーの動向がわかるような指標を追っていれば、「新たな施策に対してアクティブユーザーはどのような増減したのか、それによって次はどのような施策を打てばいいのか」
「昨日のアクティブユーザー数が減少しているのは、競合が新たなアプリをリリースしたからか、それともサーバーに何かトラブルがあったからか」
と、新しい行動につながるような洞察を得ることができます。
ともすると「データからインサイトを導く」というとさまざまな指標をダッシュボードに可視化して満足してしまうかも知れません。
「その指標は行動の変容につながる意味のある指標なの?」ということは肝に銘じておく必要がある強く認識した次第です。
追うべき指標はビジネスがどのステージにいるのかによって変化する
忘れないでほしいのだが、OMTMは時間によって変化する。例えば、ユーザーの獲得(とユーザーから顧客へのコンバージョン)にフォーカスしている時は、有効な獲得チャネルやコンバージョン率がOMTMに関係しているだろう。定着にフォーカスしている時は、チャーンを見ながら価格・機能・顧客サポートの改善などの実験をすることになるだろう。OMTMは現在のステージによって違うのだ。場合によってはすぐに変化することもある。
アリステア・クロール/ベンジャミン・ヨスコビッツ『LEAN ANALYTICS』(O’RELLY JAPAN//2023) 第6章 最重要指標の規律 / 6.1 OMTMを使う4つの理由 P50~51
OMTMとは
OMTMとは最重要指標(One Metric That Matters)のことを指します
引用の一節とOMTMの定義に従うと、スタートアップにおいて重視しなければならない3つのことが浮かび上がってきます。
- 現在のビジネスはどの段階にいるのか(獲得か定着か拡大か)
- 現段階における最重視すべき指標は何か
- 現在追っている指標がどのような水準に来たら(安定したら)次のステージまたは指標に進んでもいいのか
「指標を可視化したら、さあ安心」ではない、というのは自分にとっては大きな気づきでした。
そして上記3つに対する著者なりの解(に近いもの)が本書に収められているというところも本書のすごいところです。
企業をデータ駆動に変えるためには最重要課題ではなく2番目に重要な課題に対してデータ分析を適用する
会社が直面している「最重要」の課題ではいけない。キッチンにはすでに何人もの料理人がいるからだ(できれば関わりたくない社内政治も蔓延っている)。その次に重要な課題を選ぼう。実証可能なビジネス価値があり、見落とされているような課題だ。
アリステア・クロール/ベンジャミン・ヨスコビッツ『LEAN ANALYTICS』(O’RELLY JAPAN//2023) 第31章 結論:スタートアップの向こう側 / 31.1 会社にデータ文化を浸透させる方法 P346
つまりは「社内の課題解決におけるブルーオーシャンを見つける」ということだが、これも目から鱗が落ちました。
最重要課題にデータ分析を適用するのが最もインパクトが大きい、かつデータ活用の有用性を認識してもらいやすい、と今までの私は思っていました。
しかし、上記の一節で論じている通り、そこには「他にその課題に取り組んできた関係者」がいるはずであり、そこにデータ分析という武器で勝負を挑むことは、相手が築いてきた「課題に対する解決策」をぶち壊しに行くようなものです。
例えその解決策が功を奏していなかったり、確たる論拠に基づいていなかったとしても、意思決定をするのが人である以上、無闇に社内に敵を作るのは得策とは言えません。
なぜならそこでの確執が思わぬ形で波及して、データ活用の推進の歯止めとなってしまうかも知れないからです。
まとめ
この記事では「LEAN ANALYTICS スタートアップのためのデータ解析と活用法」の全体像を概観しつつ、私が本書から得た学ぶについて解説をさせていただきました!
本書はスタートアップを今まさに進行している方にとっては学び多いものですし、彼らないし新規プロジェクトを立ち上げる方と並走するデータアナリスト・データサイエンティストにとっても、「何を可視化すべきか」「何を分析すべきか」「なぜその指標を可視化すべきなのか」について考えるきっかけとなる重要な1冊であったと考えています!
一方で本書は内容が盛りだくさんだったので、私が今後本書で取り上げたようなビジネスに携わる際の羅針盤として、傍においておきたいと考えています!
皆さんもぜひ本書を手に取って、ビジネスを高速で回すための「リーンアナリティクス」を実践してみてください!
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