なぜ人はお母さんに「勉強しなさい」と言われると勉強したくなくなるのか?書籍『ハマるしかけ』を読んで学んだこと

マーケティング
元教師
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こんにちは!データサイエンティストの青木和也(https://twitter.com/kaizen_oni)です!

今回の記事では、アプリ企画者やマーケターの方のような「ユーザーに望ましい行動をとってほしい」方必見!書籍『ハマるしかけ: 使われつづけるサービスを生み出す 心理学×デザインの新ルール』を読んで私が得た学びをご紹介していこうと思います!

あなたはなぜ毎日SNSを見ることを繰り返してしまうのでしょうか?

なぜお母さんに「勉強しなさい」と言われると勉強したくなくなるのでしょうか?

絶えず人々がソシャゲにハマり続けているのはなぜでしょうか?

本書においては、上記のような「気づかずにHackされている」そのメカニズムについて学ぶことができる、マーケターやアプリケーション企画者に最適の1冊となっています。

ぜひ本記事を読んで、「Hack」についての解像度を高めていただけると幸いです!

本書の概要

本書で解説されるフック・モデルが「ヤバい」のは、著者のニール・イヤール氏の分析や考察がわかりやすく納得いくものであることはもちろんですが、これまで私たちのような企画者がプロダクトの企画をする際に、自身の経験や業界内の暗黙知になっているような、プロダクトを成功させるためのキモとなるポイントを、習慣性という1つの概念のもと、「トリガー」「アクション」「リワード」「インベストメント」などの簡潔なキーワードを用いながら、サービスにユーザーを「ハマらす」ポイントがフレームワークとして鮮明に描かれているからでしょう。

ニール・イヤール『Hookedハマるしかけ: 使われつづけるサービスを生み出す 心理学×デザインの新ルール』(翔泳社/2014)

本書は、人が何かしら中毒性が高いものにハマっていき、最終的に習慣を形成する過程についてビジネスの中で研究を重ねた著者が、人が習慣を形成する過程を「フック・モデル」(ハマるしかけ)として解説をした書籍となっており、マーケターやアプリ企画者などの「人がハマることによって恩恵が得られる」職業の方必見の1冊となっています。

メンタリストDaiGoなども度々言及していますが、習慣というのは人のその後の人生を形成してしまうほど、大きな影響力を持っています。

一方で、人々は無意識のうちに習慣を形成してしまっているケースもあります。

あなたは朝起きてすぐにスマホを見ていないでしょうか?

YouTubeのショート動画を見ていたら大量の時間が過ぎ去っていた経験はないでしょうか?

お昼過ぎについついお菓子を食べてしまっていないでしょうか?

本書においてそれらの行動は、

  • きっかけを与えられ
  • 行動を促され
  • 報酬を与えられ
  • 時間や金銭を投資させることによって

強固な習慣として確立したものだとされています。

本書において、上記「フック・モデル」を解剖し、仕事におけるマーケティングや習慣化するようなアプリの開発、はたまた自身の望ましい行動の習慣化や、逆に言えば望ましくない行動を取り去るための脱学習として活用することができます。

本書の章立ては以下のとおりです。

  • Chapter 1 THE HABIT ZONE ハビット・ゾーン(習慣化された領域)
  • Chapter 2 TRIGGER トリガー(きっかけ)
  • Chapter 3 ACTION アクション(行動)
  • Chapter 4 VARIABLE REWARD リワード(予測不能な報酬)
  • Chapter 5 INVESTMENT インベストメント(投資)
  • Chapter 6 WHAT ARE YOU GOING TO DO WITH THIS? フック・モデルをどのように活かせばよいのか
  • Chapter 7 CASE STUDY: THE BIBLE APP ケース・スタディ:聖書アプリ(Bible App)
  • Chapter 8 HABIT TESTING AND WHERE TO LOOK FOR HABIT-FORMING OPPORTUNITIES

上記章立てのように、序盤でハック・モデルというフレームワークについてのインプットを行った後に、フック・モデルの活用例や実例を示すことによって、よりハック・モデルに対する理解を深めることができるような章立てとなっています。

本書から得た学び

私が本書から得た学びは以下の3つです。

  • 子どもに勉強するなと言わない方がいい — 心理的リアクタンス —
  • 人が行動するための条件
  • 小さく投資させる

順を追って解説していきます

子どもに勉強するなと言わない方がいい — 心理的リアクタンス —

あなたはお母さんに「勉強しなさい!」と言われて、「今やろうとしてたのに!」と思ってとたんに勉強をする気を無くしたことはないでしょうか?

はたまた親があーだこーだ口出してきた場合には、天邪鬼のようにその選択肢を選びたくなくなった、というような経験はないでしょうか?

あなたがビジネスマンなら、あなたのタスクに対して上司があーだこーだ口出してきたときに「やたらこの人管理しようとしてくるな、、、もうちょっと自主性を持たせてくれよ、、、」と思ったことはないでしょうか?

上記の例のように、誰かがあなたの行動をコントロールしようとしてきたり、管理しようとしてきたりしたときに敏感に反応を返すことを心理的リアクタンスと呼びます。

では、我が子に勉強させたい場合は母親はどのように声をかけるべきなのでしょうか?

問いのヒントとなるような事例が本書では紹介されています。

フランスの研究の1つに、見知らぬ人にバスの運賃を求められた際に渡す金額は、ある決まった言い回しによって影響されるのかということを調査したものがある。その調査で研究者たちは人に渡す金額が2倍になる非常に簡単で効果的な方法を発見したのだった。

(中略)

では、研究者たちが発見した魔法の言葉は何であろうか。それは「それを受けるも、断るもあなたの自由です」。

ニール・イヤール『Hookedハマるしかけ: 使われつづけるサービスを生み出す 心理学×デザインの新ルール』(翔泳社/2014) P130

つまり、「強制をしないこと」が行動を促すカギとなるのです。

「行動させるためには行動を強制してはいけない」というのは非常に逆説的で面白い研究結果です。

本書においては、ダイエットアプリについても、「カロリーを減らすための厳しいメソッドを教えてくれるアプリ」ではなく、「オンラインコミュニティを形成し、自然と運動したりカロリー摂取量を記入したくなるようなアプリ」の方がHackという面では習慣化しやすいと紹介しています。

つまり、親として子どもに勉強させたい場合には「勉強しなさい」という直接的な命令をするのではなく、子どもが勉強したくなるような仕組みづくりを行うことが重要となるのです。

人が行動するための条件

医者に「肥満なのでダイエットしてください」と言われたあなたは、明日からジョギングを開始することができるでしょうか?

おそらく、無理でしょう。明日も今日と同じくポテチを食べて、Netflixを見ているかもしれません。

それでは、医者が言われたことに対して、なぜ行動できないのでしょうか?

一方で、「あなたは肥満で、このままだと1年後に死にます」と言われた場合、あなたは明日からジョギングを開始することができるでしょうか?

おそらくこの場合は多くの方がジョギングを開始することができるものと思われます。

では、2つの状況の違いはなんでしょうか?

それは、運動をすることに対する強烈な動機づけが存在するからです。

だって、運動して痩せないと死ぬのですから。

人間の行動に関する理論を研究したスタンフォード大学のBJフォッグ博士は、本書において行動のトリガーを簡単なモデルで説明しています。

フォッグ博士はいかなる行動であっても、行動を起こす人間には以下の3つの要因が不可欠であると結論づけている。

(1)十分なモチベーションを持っている

(2)行動するための能力を持っている

(3)行動を起こすトリガーが存在する

ニール・イヤール『Hookedハマるしかけ: 使われつづけるサービスを生み出す 心理学×デザインの新ルール』(翔泳社/2014) P075

先ほどの「肥満と診断されただけ」の例で言うと、行動するための能力は歩けさえすればOKなので(2)は持っていましたが、(1)については十分なモチベーションを持っていたとは言えません。

一方で、「痩せないと死ぬ」は強烈なモチベーションにつながりますし、医師の発言自体もそのトリガーと考えることができます。

では、「痩せないと死ぬ」状態ではないけれど痩せたい場合はどうすればいいのでしょうか?

それは「心理的リアクタンス」の例にもつながりますが、(1)自身でモチベーションが湧くような環境・動機を作り、(3)行動を起こすためのトリガーを習慣の中に組み込むしかないのです。

例えば、

  • 3ヶ月後に合コンをセットし、恥をかきたくないのでダイエットをする
  • みんチャレ等の集団で努力をするようなコミュニティに参加し、仲間と励まし合ってモチベーションを保つ
  • 3ヶ月後までに5kg体重を落とさなければ友人に1万円払う約束をする

など、その人のモチベーションが上がるきっかけに沿った追い込み方やモチベの上げ方を実施することが第1の壁を乗り越えるためのコツとなりうるでしょう。

(3)行動のトリガーについてもIF-THENプランニングのように、「もし⚪︎⚪︎をしたらXXをする」のような行動の条件付けを行い、⚪︎⚪︎の部分をすでに日常の中で習慣化されていることを設定することによって、新たな習慣を作ることができるようになります。

一貫性を利用する

あなたは映画館で見始めた映画がつまらなかった時、「こんなにつまらないなら、さっさと退場して他のことでもしてた方がマシじゃん」と判断して映画館を後にすることができますか?

あなたはネット漫画で「少しだけ…」と最初の方の漫画を購入したら、結局最後まで課金をし続けてしまった経験はありませんか?(ブログ主経験談)

上記のような行動は一般的には「サンクコスト効果」と呼ばれますが、本書ではこうした「ユーザーに投資させる」手法について、Hackの最終段階として紹介されています。

つまり、ユーザーはある程度の時間やお金を投下することによって、そのプロダクトから離れることができなくなってしまうのです。

これは何もゲームや映画や漫画などの娯楽に限らず、Adobe Illustratorやプログラミング言語のような仕事道具についても言うことができます。

なぜなら、それらのツールは使いこなすのにそれなりの時間を要するため、新しいツールやプログラミング言語が出てきたとしても、「せっかく今のツールを使いこなせるようになったんだから…」「せっかくこの言語で色々なことができるようになったんだから…」と乗り換えることを拒否するようになります。

私はこれに似た現象を最近ChatGPTで実感しています。

現在ChatGPTに類似したUIの優れたGPTモデルは多数登場しているものの、なかなか足を踏み出せずにいるのは、「せっかくchatGPTに色々なプロンプトを食わせて、僕専用のChatGPTとしてカスタマイズできてきたところなんだから…」と学習データという投資によって、他のGPTモデルに動くことができなくなっているのです。

このように、初めは小さな投資をさせることによって、新たなトリガーやモチベーションが登場しない限り、そのツールに縛り付けておくことができるようになるのです。

まとめ

今回の記事では、アプリ企画者やマーケターの方のような「ユーザーに望ましい行動をとってほしい」方必見!書籍『ハマるしかけ: 使われつづけるサービスを生み出す 心理学×デザインの新ルール』を読んで私が得た学びをご紹介しました!

本記事で紹介したのは、ハック・モデルの本の一部分ですが、本書では人があるモノにはまっていく過程がむず痒くなるほどに書かれている、かつそれらが何らかの研究や調査に基づいているため、人の行動を扱う人(職業的な面でも、育児的な面でも)にとっては非常に参考になる書籍かと思われます。

また、今回の記事においては「自身の行動を変容させる」という本書とは異なったアプローチで紹介をさせていただきましたが、本書においては「ハック・モデルをビジネスにどのように適用させるのか」についても詳細に記載があるため、そちらもチェックしていただけると幸いです!

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