破壊的イノベーションを起こすのに適した市場とは?イノベーションシリーズ最終巻「イノベーションの最終解」から私が得た学び

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元教師
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こんにちは!データサイエンティストの青木和也(https://twitter.com/kaizen_oni)です!

今回の記事では、経営学において知らない人はいない名著「イノベーションのジレンマ」とその続編「イノベーションへの解 利益ある成長に向けて」に続く最終巻「イノベーションの最終解」について、私が得た学びを皆さんに紹介していきたいと思います。

「優れた企業は効率的であるがゆえに、破壊的イノベーションを生み出すことができない」という内容で世の中に衝撃を与えた「イノベーションのジレンマ」。

破壊的イノベーションを起こすために経営者は、どのようなプロセスを構築し、どのような人材を管理職として据え、どのような資金提供者から資金を調達すべきか、などのより実践的な部分へと踏み込んだ前著「イノベーションへの解 利益ある成長に向けて」。

イノベーションシリーズの最終巻となる本書では、今までとは少し異なり、

  • どのような条件を満たす企業がイノベーションを起こすことができるのか
  • 政府の政策はイノベーションにどのように影響するのか
  • どのような市場環境がイノベーションを起こすのに適しているのか
  • 企業が対立関係になった時に新規企業が勝てるのはどのような状況か

などの少し俯瞰的な視点からイノベーションに対して切り込んでいる1冊となります。

本記事では本書の中から私が学び得た部分について共有していきますので、本書の概要を掴み取っていただけると幸いです!

本書の概要

本書は破壊的イノベーションの探究者クレイトン・クリステンセンのイノベーションシリーズ最終巻となっています。

破壊的イノベーションという考えを世に叩きつけた「イノベーションのジレンマ」、

破壊的イノベーションのハウツーを披露した「イノベーションへの解 利益ある成長に向けて」、

そして最終巻である本書では俯瞰的な視点からイノベーションの起こりうる状況について論じています。

本書を読むことで、経営者の方であれば「自身の切り込んでいる市場において破壊的イノベーションを起こすことができる算段がどれだけあるのか」という将来を見る鑑として、転職者や投資家であれば「これから転職(投資)したい会社が挑んでいる市場環境において勝ち目はあるのか」とイノベーションの起こりやすい場を俯瞰的に捉える教本として使えるのではないかと考えています。

本書の章立ては以下のようになっています。

  • 理論を分析に用いる方法
    • 変化のシグナル — 機会はどこにある?
    • 競争のバトル — 競合企業の経営状況を把握する
    • 戦略的選択 — 重要な選択を見きわめる
    • イノベーションに影響を与える市場外の要因
  • 理論に基づく分析の実例
    • 破壊の学位 — 教育の未来
    • 破壊が翼を広げる — 航空の未来
    • ムーアの法則はどこへ向かうのか? — 半導体の未来
    • 肥大化した業界を治療する — 医療の未来
    • 海外のイノベーション — 理論をもとに企業と国家の戦略を分析する
    • 電線を切断する — 通信の未来
    • 結論 — 次に来るのは何か?

章立てをご覧になっていただいてわかるように、破壊的イノベーションについての洞察が書かれていた「イノベーションのジレンマ」、イノベーションの実践に関する内容が書かれていた「イノベーションへの解 利益ある成長に向けて」とは異なり、

企業内からイノベーションをバシバシ進める方向けの本というよりかは、イノベーションの起こる環境とはどのようなものか?というのを少し俯瞰的な目線で分析する必要がある人向けの本であることがお分かりいただけるかと思います。

本書から得た学び

私が本書から得た学びは主に以下の3つです。

  • 破壊的イノベーションを起こすには非対称性の剣と盾を持て
  • 「窮鼠猫を噛」まれる状況に飛び込むな
  • 競合の規定路線の上に自分のビジネスを作るな

順を追って解説していきます。

破壊的イノベーションを起こすには非対称性の剣と盾を持て

非対称な動機づけという「盾」と、非対称なスキルという「剣」をもつ企業を、どのようにして見分けるか

クレイトン・クリステンセン/スコット・アンソニー『イノベーションへの最終解』(翔泳社/2014) P79

前著「イノベーションのジレンマ」では、大企業は効率的に行動するからこそイノベーションを起こすことはできないという話でした。

例えば、ベンチャー企業が勝負しているような「顧客の需要があるかもしれないが、まだ需要を発掘できていない市場」というのは、ベンチャー企業にとっては金脈にように思える絶好のビジネス環境かもしれませんが、大企業にとってはそうは映らないわけです。

なぜなら、大企業の年目標成長率5%とベンチャー企業の年目標成長率5%は、割合という観点では同じように見えても、実数ベースに直すと50億と5000万円の差であったりするので、魅力的に映る市場規模が全く違うからです。

このような状況においては、ベンチャー企業と大企業は市場に対して非対称な動機づけを持っていると言えます。

このように、「大企業が合理的に判断するからこそ手を出さない市場」で勝負をすることが、破壊的イノベーションを起こすための「盾」となりうるわけです。

具体的な非対称性の生じる市場とは以下の2種類の顧客がいる市場です。

  • 無消費者
  • 過剰満足の顧客

それぞれの具体例を追って、市場に対するイメージを膨らませてみましょう。

無消費者

無消費者とは、「自分にとって重要な用事を便利かつ簡単に片付けるための能力、財力、アクセスを持たない人たち」のことを指します。

例えば、1970年代のパソコンの登場はまさに無消費者に対する破壊的イノベーションの例と言えます。

これまでは、IBMのメインフレームのようなサマーウォーズに登場するようなドデカ超高額パソコンを企業や研究施設が買うのみで、一般家庭には縁遠いものでした。

それが、Appleが開発した個人向けパーソナルコンピュータの登場で、これまで無消費者であった一般家庭の人々が消費者となり、新たな市場が生まれたのです。

過剰満足の顧客

過剰満足の顧客とは「それまで魅力的な割り増し価格をもたらしてきた性能向上に対価を支払わなくなる顧客」のことを指します。

電化製品に年々様々な機能が追加されていくように、基本的に大企業が作る製品というのは上位顧客の要望を満たすために持続的イノベーションが行われていきます。

一方で、多くの顧客がそこまでの持続的イノベーションを求めているかと言われればそうではなく、最低限の品質でも構わないという顧客層は一定数いるはずです。

そのような、大企業が置いてきぼりにしてしまった層にこそ破壊的イノベーションを起こす非対称な動機づけがあるのです。

例えば、カーシェアやライドシェアサービスなども過剰満足の顧客に対する破壊的イノベーションと言えるでしょう。

「車を所有するまではしなくてもいいけど、気軽に乗れたらいいな」

「わざわざ自分専用のタクシーである必要はないけど、目的地近くには到着したいな」

という比較的要求の緩い顧客に対して攻め入るのが「過剰満足の顧客」市場と言えます。

スキルの非対称性

一方で、そのような市場で磨かれるスキルの非対称性も重要になります。

大企業は大きな市場に対して高品質のものを資金をかけて生産・改良することができます。

例えば、電化製品などで考えると、年々新しい機能を追加した新型製品が開発されており、またブランド力があるがゆえにCMやテレビなどで取り上げられ、顧客の心をガッチリ掴んで売上を作っています。

一方で、ベンチャー企業が大企業と同じ戦略を取れるかというと、そうではありません。

そもそも、資金が潤沢でないかつブランド力が大企業に劣るからこそ、非対称性の盾が使えるような市場に攻め入る必要があるわけです。

そうすると、ベンチャー企業が小さな市場で勝つためには、多産多売ではなく小さな市場でも立ち回れるようなコスト構造であったり、大企業の軸とは異なる軸での製品開発だったりするわけです。

そのような環境の中で培われたスキルというのは、結果として大企業のそれとは異なってものになるはずで、それこそが「非対称性の剣」なのです。

非対称性の盾のある環境で、非対称性の剣を磨きながら成長していくと、結果としてどうなるでしょうか?

「無消費者」や「過剰満足の顧客」が購入をするということは、低価格帯でそこそこの品質からスタートすることになります。

そのような状況で生き続けられるようなコスト構造で市場を開拓していくに従って、持続的な品質向上を図ることができます。

すると、「無消費者」「過剰満足の顧客」以外の顧客についても製品・サービスに価値を見出し、商品・サービスを購入してくれるようになります。

こうして市場の最下層から段々と上位市場に移行していき、その際にローコストで品質の高いものを作るという大企業には持ち得ないスキルを獲得していくのです。

そして、最後には小市場から始まった市場規模は大きなものへと成長しており、大企業が対抗しようとするも自分たちとは異なるスキルを持っているが故に、大企業は対抗しきることができません。

このようにして、成長序盤は非対称性の「盾」によって大企業がモチベの湧かない市場で奮闘し、成長終盤は非対称性の「剣」によって大企業が持たざるスキルで市場を席巻するのが破壊的イノベーションのためのバランスのとれた戦略なのです。

「窮鼠猫を噛」まれる状況に飛び込むな

先ほどの非対称性の「盾」の話の続きですが、非対称性の「盾」が生じないような環境とはどのような環境でしょうか?

対称性のある市場環境とは大企業がすでに参入しており大きな利益を上げている市場のことを指します。

一方で大企業が参入しているものの「非対称性の存在する市場」については対称性のある市場環境には含まれません。

例えば、大企業にとって利益率が低く将来性がないように見える市場やコストが多くかかる市場は非対称性の存在する市場に当たります。

新興企業はこのようなローエンド市場から段々と上位の市場に攻め込んでいくのが破壊的イノベーションの定石なのですが、1点だけ注意をしなければならないことがございます。

それは、「大企業がなんとしてでも抵抗してくるような市場を攻撃しない」ということです。

例えばそのような市場の例としてあげられるのは航空業界を上げることができます。

以前の航空業界は膨大な設備投資を行なった一部の企業のみによって運営されていましたが、今やLCCなどの格安航空も進出してきており、激戦区となっています。

そのような中でかつての航空大企業がレンタルビデオ事業のTSUTAYAやパソコン事業のIBMのように締め出されたかというとそうではありません。

なぜなら、彼らにはかつての投資が故にひくに引けない状況にあるからです。

航空各社は航空便サービスに膨大な投資をしており、それ以外のサービスの展開ということが実質不可能で、LCCが攻め入ってきたとしてもその市場で戦うしかないのです。

そのため、航空各社はLCCに対抗するようなプラン割引やダイナミックプライシングによる一部航空便の値下げ、付加価値付などを行うことによってなんとか持ち堪えています。

既存企業は逃走が不可能な状況では、闘争を選択すると考えられる。そうなると新規参入企業は、非対称的な動機づけという盾の陰に隠れられなくなる。そしてこれが早い段階で起これば、新規参入企業には非対称なスキルを磨くだけの時間がない。その結果、市場シェアをめぐる熾烈な戦いが勃発することが多い。

クレイトン・クリステンセン/スコット・アンソニー『イノベーションへの最終解』(翔泳社/2014) P79

一方で、TSUTAYAなどは書店・コワーキングスペース運営に舵を切っていますし、IBMもクラウドサービスやITコンサルティング事業に舵を切っており、彼らだ元いた場所はAmazon、Netflixなどの動画配信企業やApple、LenovoなどのPC販売業者が陣取っています。

このように、破壊的イノベーションを起こす市場については、既存企業が背水の陣で特攻を仕掛けてくるような市場を選定してしまうと、互いに利益率の高くない泥沼の戦いになってしまう結果となってしまうので、市場選定には注意が必要です。

競合の規定路線の上に自分のビジネスを作るな

上記までは相手が「逃走」ではなく「闘争」を選択してくるパターンについて話しましたが、もう1つ大企業の取りうる逃走以外の行動があります。

それは「取り込み」です。

例えば、AIスタートアップなどを大企業がM&Aする話は現代においてはレアケースではありません。

そして、なぜ取り込みが行われてしまうのかという元を辿ると、そこにも「非対称性の関係を築けていないから」という問題が横たわっています。

既存企業が「取り込み」という選択肢を取るのは、以下の2つのパターンが考えられます。

  • 既存企業が新規参入企業と似た製品・サービスの開発に取り組んでいるパターン
  • 製品・サービスの流通プロセスが似通っている場合

似た製品・サービスの開発に取り組んでいる場合に技術力の強化として新規参入企業をM&Aするのは非常に自然な選択肢ですし、流通プロセスが似通っている場合にも既存企業はM&Aを行なった後も自然な形でM&A先の企業の製品・サービスを展開することが可能です。

このように、「逃走」ではなく「取り込み」が選択できるような状況に既存企業を置いてしまうことも破壊的イノベーションを展開するための市場選びとして失敗していると考えられます。

新規参入企業は、小さく取るに足りない市場に既存企業が関心を示さないおかげで、最初のうちこそ成長できても、いったん市場の存在が知れ渡れば、既存企業は社内の資源を動員してイノベーションを取り込もうとするかもしれない。新規参入企業がこの事態を避けるには、既存企業がイノベーションの取り込みに魅力を感じないようにしなくてはならない。

クレイトン・クリステンセン/スコット・アンソニー『イノベーションへの最終解』(翔泳社/2014) P79

まとめ

今回の記事では、経営学において知らない人はいない名著「イノベーションのジレンマ」とその続編「イノベーションへの解 利益ある成長に向けて」に続く最終巻「イノベーションの最終解」について、私が得た学びを皆さんに紹介していきました。

この本を読むと、孫子の兵法などでも言われていますが戦場選びから戦いは始まっているのだとひしひしと感じられます。

また、既存企業には魅力的に映らない市場ということは、イノベーションを起こす道というのは、後になれば道かもしれないが、初めの一歩の段階では道なき道であるということも伝わってきます。

皆さんも新規参入企業として攻め入る際には、非対称性の盾と剣を持てる状況であるかを鑑み、本書を片手にビジネスの荒波へと飛び込んでください!

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