「自然科学の統計学」第10章演習問題2-静止を含むランダムウォークを丁寧に解説してみた

統計基礎
元教師
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こんにちは!データサイエンティストの青木和也(https://twitter.com/kaizen_oni)です!

今回の記事では、統計学の青本「自然科学の統計学」の第10章-演習問題2「静止を含むランダムウォーク」について丁寧に解説していきたいと思います。

静止状態を含むことによってやや複雑になったように感じますが、適切に式を立てて整理していけばすっきりとした解を導くことができるので、一緒にランダムウォークに対する理解を進めていきましょう!

問題文

<静止を含むランダムウォーク>

1次元のランダム・ウォークを考える.

粒子は直線上を左に確率$\alpha$、右に確率$\beta$で動き、確率$\gamma$で元の位置に止まっているとする。

ここで、$0 < \alpha, \beta, \gamma < 1, \alpha + \beta + \gamma = 1$とする。

また原点0とNを吸収壁とする。

点$a (0 \leqq a \leqq N)$から出発したとして0に吸収される確率は

$$p = 1 – q = \frac{\beta}{(\beta + \alpha)}$$

とおけば、(10.2), (10.3)で与えられることを示せ

※(10.1)

$$r(a) = pr(a+1) + qr(a-1)$$

※(10.2)

$$r(a) = \frac{\left(\frac{q}p \right)^N – \left(\frac{q}p \right)^a}{\left(\frac{q}p \right)^N -1}~~~(p \ne q の時)$$

※(10.3)

$$r(a) = 1 – \frac{a}N~~~(p = q の時)$$

東京大学教養学部統計学教室『自然科学の統計学』(東京大学出版社/2001) 第10章 P305

吸収壁とは?

吸収壁とは、例えばお互いのチップを賭けたゲームをしている時に、プレイヤーAが持っているチップの枚数を$a$枚とし、相手との合計チップ数が$N$である時の、0や$N$の値のことを指します。

例えば、ゲームを続けていて、$a=0$、つまり自身のチップがなくなったときに、プレイヤーAはゲームを続行することができなくなるため、ゲームは終了します。

また、$a=N$になった場合にも、今度はプレイヤーBのチップがなくなったことが分かるため、ゲームは終了します。

つまり、$a=0, N$となった瞬間にゲームはピタっと止まってしまうので、吸収壁と名付けられているわけです。

なお、吸収壁とは反対に、チップ数が0になったとしてもゲームを続行し、ある一定の確率で相手にチップの施しを与えるような時の0や$N$のことを反射壁といいます。

(10.1)式と(10.2)(10.3)式との関係

(10.2)式と(10.3)式は、差分方程式(10.1)と境界条件

$$r(0) = 1, ~~ r(N) = 0$$

から導かれる差分方程式の一般解です.

解説

本問題については、以下の3ステップで考えます。

  • 差分方程式を作成する
  • $\alpha + \beta + \gamma = 1$を利用して式を変形する

順を追って解説いたします.

確率の漸化式を作成する

粒子の動きについて、以下のそれぞれの事象を考えます。

  • $R$: 点$a$が0に吸収される事象
  • $A_1$: 最初に左に動く事象
  • $A_2$: 最初に右に動く事象
  • $A_3$: 最初にその場に静止する事象

ここで、事象$A_1, A_2, A_3$に限らず、事象$R$は発生しうるため以下のような式で考えることができます。

ここで、事象$A_1, A_2, A_3$は互いに排反事象($A_1 \cap A_2 \cap A_3 = \Phi$)であることに気をつけましょう

$$R = (R \cap A_1) \cup (R \cap A_2) \cup (R \cap A_3)$$

ここで、点$a$から出発して0に吸収される確率を$P(R) = r(a)$と表現することとします。

$P(R)$について考えると以下のような式を立てることができます。

$$P(R) = P(R \cap A_1) +P(R \cap A_2) + P(R \cap A_3)$$

ここで、条件付き確率の式より、上式は以下のように変形することが可能です。

$$P(R) = P(R|A_1)P(A_1) + P(R|A_2)P(A_2) + P(R|A_3)P(A_3)$$

ここで、上式に登場する確率を整理すると以下のようになります。

  • 最初に左に動く確率: $P(A_1) = \alpha$
  • 最初に右に動く確率: $P(A_2) = \beta$
  • 最初に静止している確率: $P(A_3) = \gamma$
  • 最初に左に動いた状況において、0に吸収される確率: $P(R|A_1) = r(a-1)$
  • 最初に右に動いた状況において、0に吸収される確率: $P(R|A_2) = r(a+1)$
  • 最初に静止していた状況において、0に吸収される確率: $P(R|A_3) = r(a)$

$r(a+1)$について詳述すると、最初に右に動いた場合には、粒子は$a$から$a+1$に移動しますが、次の回を再度第1回目とすると、粒子は点$a+1$からのスタートと考えることに由来します。

先ほど求めた確率を$P(R)$に関する式に代入すると

$$P(R) = \alpha r(a-1) + \beta r(a+1) + \gamma r(a)$$

よって、差分方程式

$$r(a) = \alpha r(a-1) + \beta r(a+1) + \gamma r(a)$$

を得ます。

$\alpha + \beta + \gamma = 1$を利用して式を変形する

先ほど得た差分方程式を少し式変形すると以下のようになります。

$$(1- \gamma)r(a) = \alpha r(a-1) + \beta r(a+1)$$

ここで、$\alpha + \beta + \gamma = 1$より

$$1 – \gamma = \alpha + \beta$$

よって、

$$(\alpha + \beta) r(a) = \alpha r(a-1) + \beta r(a+1)$$

$$r(a) = \frac{\alpha}{\alpha + \beta} r(a-1) + \frac{\beta}{\alpha + \beta}r(a+1)$$

ここで、問題文にあるように$p = \frac{\beta}{\alpha + \beta}$とすると、$q = \frac{\alpha}{\alpha + \beta}$となる。

これを先ほどの式に代入すると

$$r(a) = pr(a + 1) + qr(a-1)$$

よって、これは差分方程式

$$(10.1)~~r(a) = pr(a+1) + qr(a-1)$$

と等しい。

また、原点0と$N$が吸収壁であることから、境界条件$r(0) = 1, r(N) = 1$も(10.1)と同一である。

まとめ

今回の記事では、統計学の青本「自然科学の統計学」の第10章-演習問題2「静止を含むランダムウォーク」について丁寧に解説しました!

静止を含むランダムウォークについても確率を適切に設定してあげれば、従来の破産確率と同様に求めることができることがお分かりいただけたかと思われます!

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