こんにちは!データサイエンティストの青木和也(https://twitter.com/kaizen_oni)です!
今回の記事では、日本企業の「組織的知識創造」にフォーカスした1冊『知識創造企業』から得た学び3選を紹介いたします!
米国では「ジョブディスクリプション」でしっかりと機能分離した形で業務を進めていくのが一般的ですが、日本企業には冗長性があるからこそ「組織的知識創造」につながっている、というのが本書の主張になります。
「組織内の各部門に蓄積されている知識を有効に活用できていない」「トップダウンで企業方針を伝えるものの、なかなか現場が理解をしてくれない」とお悩みの経営企画室の方やマネージャーの方におすすめです!
本書の概要
本書の中でわれわれが主張しているのは、日本企業は「組織的知識創造」の技能・技術によって成功してきたのだ、ということである。
野中郁次郎/竹内弘高『知識創造企業』(東洋経済/2020)xi
組織的知識創造とは、新しい知識を創り出し、組織全体に広め、製品やサービスあるいは業務システムに具体化する組織全体の能力のことである。
本書は、日本企業の「組織的知識創造」の面にフォーカスを当て、「どのような形で組織において知識は創造され、どのような組織体制であるのが望ましいのか」まで答えを出している、組織論のジャンルに該当する1冊になります。
本書の章立ては以下のようになっています。
- 第1章: 序論 — 組織における知識
- 第2章: 知識と経営
- 第3章: 組織的知識創造の理論
- 第4章: 知識創造の実例
- 第5章: 知識創造のためのマネジメントプロセス
- 第6章: 新しい知識創造
- 第7章: グローバルな組織的知識創造
- 第8章: 実践的提言と理論的発見
本書から得た学び
本書から得た学びは以下の3つです
- 組織内で知識が創造される過程:知識スパイラル
- 知識スパイラルのドライバー:ミドルマネージャー
- 組織的知識創造のための組織の3層構造
順を追って解説していきます。
組織内で知識が創造される過程:知識スパイラル
組織的知識創造とは、暗黙知と形式知が四つの知識変換のモードを通じて、絶え間なくダイナミックに相互循環するプロセスである。四つの知識変換モードは、それぞれを引き起こすトリガーを持っている。
野中郁次郎/竹内弘高『知識創造企業』(東洋経済/2020)P120
知識、というのは組織だけで生み出すことはできず、組織に所属している「個人」が知識の起点となります。
その個人が経験から得た知識を一人で使っている以上は、組織に知識が共有されることはないので、組織に知識が蓄積されることはありません。
そのため、組織における知識創造が生まれるためには、知識を個人が作り出す工程や知識を伝える工程など、様々な工程を経る必要があります。
本書においては、組織において知識が創造される過程を4つのプロセスの繰り返しによって表現しています。
- 共同化
- 表出化
- 連結化
- 内面化
上記4つのプロセスについて簡潔に解説します。
共同化
共同化とは、経験を共有することで、考え方や技能などの暗黙知を創造するプロセスです。
寿司職人の弟子が、師匠の寿司の握りを見て、真似して、練習して、失敗しながら学ぶプロセスと言い換えてもいいでしょう。
企業のOJTの多くは共同化にあたります。
表出化
表出化とは、暗黙知を明確なコンセプトに表すプロセスであり、言語化の上手い上司などは「表出化の上手い上司」とも言い換えられるでしょう。
例えば、本書で紹介されているのは「ヒトのためのスペースを最大化する車」を開発する際に、体積が最も大きい形を形容して「球に近い車=トールボーイ」というコンセプトを打ち出しました。
「球に近い」というコンセプトは、車体が長方形であった当時においては車の形を大きく変容させるコンセプトであり、「我々はどういった車を作るのか」がより伝わりやすいコンセプトとなっています。
連結化
連結化は、形式知と形式知を組み合わせて一つの知識体系を作るプロセスであり、AIとチャットツールを組み合わせたChatGPTのようなサービスは連結化の一種と考えられるでしょう。
また、会社の大々的なコンセプトをミドルマネージャーが現場向けに再解釈して、中範囲のコンセプトにする際にも形式化が行われているといえるでしょう。
本書に登場している例で言えば、アサヒビールの全社としてのグランドコンセプトが”Live Asahi for Live People”という抽象度の大きな概念であったときに、開発すべき商品コンセプトとしては「コクとキレ」という中範囲コンセプトで表現しました。
内面化
内面化は、形式知を暗黙知に変換するプロセスであり、「書籍から学んで、実際にやってみて体で学ぶ」プロセスは内面化と言えます。
企業において内面化するために重要なことは、適切に形式知がドキュメント化されていることになります。
そして、上記4つのプロセスは、組織内で絶え間なく繰り返されることによって、組織としての知識を創造し、その練度を深めていくのです。
具体的には、以下のような方策によって、それぞれのプロセスが動き出します。
- 共同化: 場作りと体験の共有
- 表出化: 対話による言語化
- 連結化: 形式知の組み合わせの共有や試行錯誤
- 内面化: 行動をすることによる体験と学習
組織において知識を創造するためには、上記のような方策を組織の活動に意図的に組み込む必要があるのです。
知識スパイラルのドライバー:ミドルマネージャー
組織という組織はすべて、遅かれ早かれ、知識を創り始める。
野中郁次郎/竹内弘高『知識創造企業』(東洋経済/2020)P120
しかし、大多数の組織ではいまだに運だけに頼っていい加減に知識が創られており、そのプロセスを予測することができない。
前述のような知識創造のスパイラルを適切に回すためには、どのような組織であるのが望ましいのでしょうか?
本書の結論としては、「ミドル・アップダウン・マネジメント」という謎の組織体制であるのが良い、という結論になっています。
よく聞くのは、トップダウン・マネジメント、つまり上位下達型の組織と、ボトムアップ・マネジメント、つまり下位上達型の組織でしょう。
では、「ミドル・アップダウン・マネジメント」について見ていく前に、トップダウン・マネジメント/ボトムアップ・マネジメントと知識の4プロセスとの関連を見ていきましょう。
トップダウン・マネジメントと知識創造プロセス
トップダウン・マネジメントは、連結化(形式知 to 形式知)と内面化(形式知 to 暗黙知)を得意とする組織体系です。
連結化について言えば、組織のトップは「我が社のコンセプト」を大々的に打ち出し、従業員はその「コンセプト=形式知」を自分たちの「業務プロセス=形式知」に変換して、業務を遂行します。
内面化について言えば、「業務プロセス=形式知」に従って仕事をしているうちに、個々人が個々人なりの「気づき=暗黙知」を得て、業務を効率的に進めることができるようになります。
一方で、基本的にはトップの命令に従って行動するので、従業員同士の相互作用による「暗黙知の共有=共同化」や従業員がそれぞれに持つ「暗黙知を共有する=表出化」はあまり起こらない傾向にあります。
ボトムアップ・マネジメントと知識創造プロセス
ボトムアップ・マネジメントは、共同化(暗黙知 to 暗黙知)と表出化(暗黙知 to 形式知)を得意とする組織体系です。
共同化について言えば、ボトムアップの企業では現場での繋がりが強く、共同で作業を行うことによって従業員個々人が持つ「暗黙知」は他の従業員に伝播していきます。
表出化について言えば、現場でのインフォーマルな対話を通じて、暗黙知が言語化されて形式知として閉じた職場内で共有されます。
一方で、基本的には現場レベルで知識の共有が完結するため、わざわざドキュメントに起こすような「俗人化の解消=連結化」や会社の方針を現場に落とし込むような「内面化」は積極的には行われない傾向にあります。
ミドル・アップダウン・マネジメントと知識創造プロセス
トップダウン・マネジメントもボトムアップ・マネジメントも知識創造プロセスの視点では一長一短あることがわかりましたが、それでは適切な知識創造サイクルを回していくためには、どのような組織体系であればいいのでしょう。
その答えが、ミドル・アップダウン・マネジメントです。
ミドル・アップダウン・マネジメントとは、上位下達・下位上達の組織の中間にミドルマネージャーを配置することによって、トップとボトムの翻訳・触媒的役割を果たし、知識創造サイクルが適切に回るような組織体制です。
組織においては、トップの見ている視点とボトムの見ている視点は往々に異なることが多いです。
トップは市場の状況や会社としての将来性などの市場というゲーム盤的にも時間軸的にもマクロな視点でビジネスを捉えることが多いですが、ボトムは顧客視点やより良いサービス・プロダクトといった子役のために目の前のことをよりよくする活動に注力しています。
すると、トップの打ち出すビジョンはボトムにとっては「それをもらって、現場にどうしろと?」となりかねませんし、ボトムから上がってくる意見はトップからすると「それをやってどれだけ企業が成長するのか?」というボトムからすると「そうじゃない」という回答が返ってきてしまうかもしれません。
そこで、ミドルマネージャーが双方の翻訳家として活躍することによって、トップから共有された「コンセプト=形式知」が適切に現場レベルの「中範囲的コンセプト=形式知」に変換されて、ボトムも理解をした上で業務に反映されることができます。
ボトムからの「意見=暗黙知が表出化した形式知」についても、トップの関心のある言葉に変換された上でトップに伝わるため、「それならば会社の方針をこう変えてみようか」という建設的な議論ができるようになってくるのです。
トップ偏重、ボトム偏重の場合には噛み合わなかった知識創造の歯車が、ミドルマネージャーという調整パーツを挟むことによって、見事にくるくると回り出すようになるのです。
組織的知識創造のための組織の3層構造
本書においては、知識創造のプロセスが適切に機能するためには、ミドルマネージャーに加えて、以下3層構造の組織レイヤーが存在する必要がある、と言及されています。
- プロジェクトチーム・レイヤー
- ビジネスシステム・レイヤー
- 知識ベース・レイヤー
それぞれのレイヤーの役割について、順を追って解説していきます。
プロジェクトチーム・レイヤー
プロジェクトチーム・レイヤーは、部署の垣根を超えたプロジェクト単位の複数のチームであり、プロジェクトを進めていく中で、主に共同化(暗黙知 to 暗黙知)と表出化(暗黙知 to 形式知)を通じて知識を創造していきます。
製品開発からマーケティングをプロジェクトチームで一貫して行う場合や、コンサルティングファームにおけるプロジェクト、複数部門にまたがったDX推進プロジェクトなどはこのような例にあたります。
知識ベース・レイヤー
プロジェクトチーム・レイヤーで得られた成功体験や失敗体験を共有し、ドキュメントや成功事例発表などの形式知化して蓄積するレイヤーが知識ベース・レイヤーです。
つまり、知識ベース・レイヤーはプロジェクトチーム・レイヤーやビジネスシステム・レイヤーのように人が所属するようなレイヤーではなく、社内データベースや企業のビジョンのような知識の概念を蓄積する場所のことを指します。
ビジネスシステム・レイヤー
ビジネスシステム・レイヤーはプロジェクトにアサインされていないメンバーが部門のメンバーとして通常業務を行う際のレイヤーになります。
一方で、部門はトップを起点としたピラミッド構造になっているため、知識ベース・レイヤーに存在する会社としてのビジョン・方針や形式知化された知識を伝達することが容易になります。
つまり、知識創造プロセスにおける連結化(形式知 to 形式知)と内面化(形式知 to 内面知)を担当するレイヤーとも言えます。
ここまで3つのレイヤーを簡単に紹介してきましたが、これら3つのレイヤーが企業の中に並行して存在することによって、知識創造のサイクルが有機的に機能することができ、企業の競合優位性としての知識を生み出すことができるようになります。
まとめ
今回の記事では、日本企業の「組織的知識創造」にフォーカスした1冊『知識創造企業』から得た学び3選を紹介してきました!
生成AIの台頭している中、「身体的知」や「暗黙知」の重要性がより高まっています。
そのような練度の高い知識を生み出すためにも、「組織的知識創造」ができるような組織体制はますます必要になってきますので、皆さんもぜひ本書をご一読いただけると幸いです。
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