こんにちは!データサイエンティストの青木和也(https://twitter.com/kaizen_oni)です!
今回の記事では、人材育成に関わる人にすべからく読んでほしい1冊『企業内人材育成入門』を読んで私が得た学び3選をご紹介いたします!
本書は企業における「人材育成」について、自分たちが受けてきた教育の視点で語るのではなく、しっかりと理論に基づいて人材育成を行っていきたいという野心あふれる方にお勧めの1冊になっています。
本書は情報密度が高く、本記事だけではとてもではありませんが本書の良さをすべて伝えきれないため、数回に分けて本書から得られる学びをお届けいたします!
本書の概要
本書は、「人を育てるための心理学、教育学の基礎理論」を簡潔に紹介する入門書である
最近、人材育成部門への異動が決まった方、人材育成部門に十数年勤務し、そろそろ知識の整理を行いたい方は、言うにおよばず、本書のターゲットユーザである。
中原淳、荒木淳子、北村士朗、長岡健、橋本諭『企業内人材育成入門』(ダイヤモンド社/2006) Piii
加えて、人材育成部門には属していないものの、新入社員に対してOJT(on the job training)を提供しなければならない立場にある方など、企業・組織で「人育て」に関わるすべての人々に読んでいただけるよう編集されている。
本書は、「教育」と称する活動に関わるすべての人にお勧めできる、「育成」について心理学や教育学の観点から体系的にまとめられた本です。
ブログ主も教員免許を持っている、かつ、元教員ということもあり、あまたの教育書を読んで参りましたが、本書はその中でもずば抜けて分かりやすく、ずば抜けて濃密に教育活動について書かれており、それでいて実践的という、教育というジャンルの中で群を抜いている1冊です。
人材育成について多種多様なトピックスが書かれているため、情報量が非常に多く、ブログ主は本書を11月に手に取ってから2周しました。
2周読んでも、違う視点で学びが得られる、そんな濃密な1冊になっています。
本書の章立ては以下のとおりです。
- 第1章 学習のメカニズム
- 第2章 学習モデル
- 第3章 動機づけの理論
- 第4章 インストラクショナルデザイン
- 第5章 学習環境のデザイン
- 第6章 教育・研修の評価
- 第7章 キャリア開発の考え方
- 第8章 企業教育の政治力学
[本書読了前]本書から得たい学び
本書から得たい学びは以下の3つです。
- どのような研修が、企業にとって価値のある研修になるのか
- 受講者が意欲的に取り組むことができる研修とはどのようなものか
- 研修を実施する者が研修以外の側面で考えなければならない点はどのような点か
自身が研修を実施し、企画する側の立場であるからこそ、企業視点で・受講者視点で・社会視点でどのような研修を作っていくべきなのかを本書から学びたいと考えています.
[本書読了後]本書から得た学び
私が本書から得た学びは以下の3つです。
- 研修づくりの始めの一歩 – IDプロセス
- 研修教材づくりの指針 – ガニエの九教授事象
- 研修の問題を切り分けるために必要な「教育」と「学習」の違い
順を追って解説していきます。
研修づくりの始めの一歩 – IDプロセス
「いいかい、Aくん。インストラクショナルデザイン(Instructional design: ID)とは、教育を効果的、効率的に、設計・実施するための方法論だ」
中原淳、荒木淳子、北村士朗、長岡健、橋本諭『企業内人材育成入門』(ダイヤモンド社/2006) P155
皆さんは「研修づくり」と聞くと、何から着手しますでしょうか?
まずは研修のタイトルを考えるところから?
それとも、研修の章立てを考えるところから?
本書で紹介されているインストラクショナルデザインという研修をデザインする際の方法論から言えば、上記2つはどちらも研修を作る上での第一歩として不適切と言わざるを得ません。
インストラクショナルデザインにおいて、教材・研修づくりの具体的な手順のことをIDプロセスと呼ぶのですが、本書では数あるIDプロセスの手法のうち、ADDIEというIDプロセスが紹介されています。
ADDIEとは、以下の英単語の頭文字です。
- Analysis: 分析
- Design: 設計
- Development: 開発
- Implementation: 実施
- Evaluation: 評価
上記について順を追って解説をしていきます。
Analysis: 分析
分析においては、そもそもの研修の目的や受講者、組織の課題や受講者の業務内容、必要な知識など、研修の目的や要件を洗い出すことを行います。
特に、研修を実施することが目的なのではなく、研修を実施することによって最終的には何らかの組織における課題を解決したいはずです。
そのため、社内の研修担当者であれば、どのような組織課題が生じており、それが解決しない原因が何であり、その原因の背景にはどのような組織のメカニズムがあり、そのための手段として研修というのを位置付けた時に、研修終了後に受講者がどうなっていることが望ましいのか、をAs-IsとTo-beから逆算していく必要があります。
そうした研修のスタート地点としてのAs-Isと研修のゴール時点としてのTo-Beは研修設計の段階や研修実施時点でも明示する必要があります。
企業の抱える課題に対して対処する方法は多々ありますが、研修はそのうちの1つの手段に過ぎません。
そのため、研修という教育においては「できること」と「できないこと」があります。
その点を明示することによって、研修実施における認識のずれを防ぐことができます。
Design: 設計
ちゅうど、家を建てるときに、いきなり建て始めることはせずに、設計図を描くだろう。
中原淳、荒木淳子、北村士朗、長岡健、橋本諭『企業内人材育成入門』(ダイヤモンド社/2006) P157
その設計図を描くときには、きちんと分析を行なっている。
つまり、どんな家に住みたいかとか、建築基準法はどうなっているのかとかを考慮する。
設計においては、分析結果に基づいて研修で用いる教材やツールなどの設計図を描きます。
設計の解釈については、研修全体の章立てやストーリーの構成という解釈もできますし、目的達成に必要な研修群全体の設計とも解釈することができます。
Development: 開発
開発においては、設計に基づいて、研修で用いる教材やツールなどを開発していきます。
研修教材の開発については後ほど「ガニエの九教授事象」という研修教材のチェック項目を紹介します。
Implementation: 実施
実施では、開発された研修教材やツールを用いて、研修を実施していきます。
Evaluation: 評価
評価においては、研修全体や教材などの問題点を洗い出し、改善活動を行っていきます。
評価では受講者のアンケートや企業の課題のステークホルダー、講師自身の評価などを総合しながら改善方針を練っていきます。
改善が及ぶ箇所は多岐に及び、以下の図に示すように分析、設計、開発、実施の全てに対する改善点を洗い出します。
研修の改善活動における課題の切り分け方については、後ほど「教育と学習の違い」でも詳細に述べます。
上記のようなサイクルを繰り返すことによって、組織の課題解決にしっかりと寄与する研修を効果的・効率的に作り上げていくことが可能になるのです。
研修のスタート地点は講師ではなく、受講者であり、さらに原点には組織の抱える課題となりたい姿とのギャップがあります。
今後研修を作る際にはそのことを念頭に置いて、まずは受講者を知るところから始めていきます。
研修教材づくりの指針 – ガニエの九教授事象
インストラクションデザインには、「教材をどのように設計すればいいのか」についてもたくさんの知見が集まっており、本書においてはガニエの九教授事象という理論が紹介されていましたので、本記事においても紹介していこうと思います。
ガニエの九教授事象は、授業や教材を構成する構成する指導過程を、学びを支援するための外側からの働きかけと捉えて、以下の9つの働きかけを提案しています。
- 学習者の注意を獲得する
- 授業の目標を知らせる
- 前提条件を思い出させる
- 新しい事項を提示する
- 学習の指針を与える
- 練習の機会をつくる
- フィードバックを与える
- 学習の成果を評価する
- 保持と転移を高める
順を追って解説していきます。
学習者の注意を獲得する
「学習者の注意を獲得する」とは、研修の初めに研修に集中させるための仕組みを用意することを指し、講師の挨拶や受講者同士のアイスブレイクなどがこれに当たります。
YouTubeチャンネル『予備校のノリで学ぶ「大学の数学・物理学」』のヨビノリたくみさんも、以下の動画において、「講演の最初において、受講者に何か参加してもらうのはテクニックとしてあって、そうすることで講演に対して前のめりになる」と語っており、その話を聞いてからは会社の先輩のやり方を真似て研修冒頭でアンケートを取るなどのアクションを受講者に促すようにしています。
授業の目標を知らせる
「授業の目標を知らせる」では、その日に行う、またはその時間に行う学習目標を提示します。
逆に言えば、その日・その時間の学習目標を話すことなしに学習内容に入ってしまうと、
「ん?なんかぬるっと始まったぞ?」
「この研修は何に注意して話を聞けばいいんだ?」
と、目的もなしにただ授業を聞くだけの空間が誕生してしまいます。
前提条件を思い出させる
「前提条件を思い出させる」では、その日に行う学習目標に到達するために、どのような知識を使うのかを思い出させます。
例えば、「まずは前回の授業の復習から入りましょう」のように、今回の研修のために必要な前提知識などを思い出してもらったり、前回の研修からのストーリーを思い出してもらうために簡単におさらいを行います。
新しい事項を提示する
「新しい事項を提示する」では、これまで扱っていない新しい項目を提示します。
研修に参加する受講生は当然ですが、何か新しい知識を得たり、考え方を得たり、スキルを得るために研修に参加しています。
そのため、研修の目的にあった新しい事項を提示することが研修には必要不可欠です。
学習の指針を与える
「学習の指針を与える」では、学習目標を達成するためのヒントを与えます。
新しい知識を提示したからといって、すべての受講者が完全に知識を習得してくれるわけではありませんし、新しいやり方を提示したからといって、すべての受講者が最初から完全に新しいやり方を遂行できるようになるわけではありません。
そこには、講師が付加価値として提供できる「覚えるコツ」や「実践のコツ」があるはずです。
練習の機会をつくる
「練習の機会をつくる」では、学んだ学習内容を練習してもらいます。
目で見て、耳で聞いた知識の大部分は数時間も経てば抜け落ちてしまいますが、実際に考えてもらったり、実際に手を動かしてもらうことによって、知見に対する理解を深め、記憶への定着を深めてもらうことができます。
逆に言えば、知識だけ一方的に話されるような講義形式では受講者は飽きてしまいますし、「結局あの研修で何か学んだっけ?」とすぐに忘れ去れてしまうような研修になってしまいます。
フィードバックを与える
「フィードバックを与える」では、受講者が練習した中で、何が正しく、何が間違っており、間違えた場合にはなぜ間違えたのかを指摘してあげることが肝要です。
逆に言えば、受講者に間違いが起きうるような課題や難易度の高い課題においては適切なフィードバックをしてあげないと、「なんだ、やらせっぱなしじゃないか」「今やったことが合ってるのか間違っているのか分からないよ」と受講者が不満を抱いたり、不安を抱いたりしてしまいます。
学習の成果を評価する
「学習の成果を評価する」では、テストを使って、どれだけ学習できたのかを調べてあげます。
これは簡単な小テストを研修内でやるもよし、正誤判定付きのFormsを発行して受講者自身でチャックをしてもらうでも良いでしょう。
仕入れた知識はアウトプットする際に思い出そうとして、より強力に記憶に刻みつけられます。
受講者が正しく学習できているのかチェックする意味でも、受講者が研修で学んだ内容をより記憶に定着させる意味でも、学習成果の評価のステップは組み込むのが良いでしょう。
保持と転移を高める
「保持と転移を高める」では、行った学習について忘れてしまう頃にもう一度確認する、つまり復讐することを意味します。
これは例えば事後学習のような形で、研修実施後に研修内容を実践する機会を設けたり、研修後アセスメントのような形で研修内容を思い出す機会を意図的に作るのが良いでしょう。
以上のように、ガニエの九教授事象は受講者にとって効率的に学習できるような研修教材を作るための指針やチェックリストとなるような理論です。
何も特別なことは言っていませんが、だからこそ研修の基礎として外せない要素が羅列されています。
研修の問題を切り分けるために必要な「教育」と「学習」の違い
レイヴとウェンガーによれば、そこに存在する問題は、学習と教育に関する認識のズレである。
中原淳、荒木淳子、北村士朗、長岡健、橋本諭『企業内人材育成入門』(ダイヤモンド社/2006) P67
それは、「X社のマーケティングを改革するために組織・個人がすべきこと(=学習活動)」と「それを支援するために人材育成部門ができること(=教育活動)」との混同である。
研修実施後のアンケートには、受講者の方からの研修に対する様々な意見が寄せられます。
そのほとんどは研修改善のための有益なご指摘であり、その指摘対象は研修教材や研修全体の流れ、講師の話し方やタイムスケジュール、演習のあり方など、多岐に渡ります。
研修講師や研修企画担当はそれらの「評価」を受けて、次回に向けた改善を検討するわけですが、「評価」の中には上記引用で挙げたように「学習活動」として参考にすべき部分と「教育活動」として参考にすべき部分があります。
「学習活動」として参考にすべき部分については、研修の前提である「組織の課題」に関わる部分になりますので、研修個々の改善に役立てるというよりは「研修が組織の課題解決の一手段であると位置付けた時に、真に研修が組織の課題解決の手段になっているのか」「受講者には組織の課題があって、そのための手段として研修が位置付けられていることをしっかり認識してもらえているのか」などの研修の前提の部分を再確認する必要があります。
「教育活動」として参考にすべき部分は、当然ながら研修のあり方や研修の中身、講師などに関わる部分になりますので、研修時間などとのトレードオフの中で、受講者が組織の課題解決に向けたTo-Beの姿に近づくことができるように研修改善に努める必要があります。
一方で、人材担当者にできるのはあくまで「教育活動」、つまり「学習」のための「支援」であって、受講者の組織の課題解決に向けた意思なしには「学習」を発生させることはできません。
研修担当者は、馬(=受講者)を水場に連れて行くことはできても、水を飲ませることはできないのです。
そのため、研修担当者は「どうしたら研修後も継続的に学習や実践をしてくれるようになるのか」「どうすれば研修の中で新しい対象に対して興味を持って、実践する気を湧かせることができるのか」など、「できることはあくまで支援」という枠組みの中で最大限尽力することが求められます。
そのようにして、受講者の「学習活動」と研修担当者の「教育活動」をしっかり切り分け、それぞれにおける課題を見極めて対策を打って行くことによって、結果としてより良い「学習活動」の支援、より良い「教育活動」の提供をすることができるのです。
ガニエの九教授事象チェックリストを作ってみた
早速、ガニエの九教授事象チェックリストを作成してみました。
「研修序盤に〜〜〜」等の部分については、ガニエの九教授事象に対して、「自分ならどのような仕掛けをスライドに盛り込むかな?」という観点で記載したものになります。
もし、皆さんがガニエの九教授事象チェックシートをつける場合には、当該部分を自分なりにアレンジして活用されることをお勧めいたします。
まとめ
今回の記事では、人材育成に関わる人にすべからく読んでほしい1冊『企業内人材育成入門』を読んで私が得た学び3選をご紹介いたしました!
教育は誰もが一度は受けてきたことがあるからこそ、自身の経験に基づいて語ってしまいがちです。
しかし、皆さんが受けてきた教育がいくら良かったとしても、それが万人に当てはまるわけではないことには注意が必要で、だからこそ「多くの人にとって良い教育になる可能性が高い」理論的側面からアプローチする必要があります。
本記事を読んで興味を持った方は、ぜひ本書を手に取ってみてください!
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