「AI人材を育てる」が目的化していませんか?書籍『AI人材の育て方 先端IT人材の確保がビジネス成長のカギを握る』から得た学び3選

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元教師
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こんにちは!データサイエンティストの青木和也(https://twitter.com/kaizen_oni)です!

本記事では、AI人材の道標的書籍『AI人材の育て方 先端IT人材の確保がビジネス成長のカギを握る』を読んで得た学びについて3つ厳選してお届けいたします!

昨今では生成AIブームとリスキリングブームの最中で「我が社ではAI活用人材を育てます!」のような標語が飛び交うようになって久しいですが、一方で育てるべきAI人材の定義や企業におけるロールが曖昧だったり、育てるAI人材が企業の実情に即していないことが往々にしてあります。

そのような企業の人材育成担当者の方にとっては、本書は転ばぬ先の杖になるかと思いますので、ぜひデスクの傍に置いておくことをお勧めいたします。

本書の概要

本書では、AI人材定義から始め、AIプロジェクトにおけるAI人材の役割およびAI人材に求められるスキルについて解説します。
また、AI人材を育成するための研修プログラム、模擬演習プログラム、実践プログラムを紹介し、AIの人材タイプ別に目指すべき人物像、育成手順、レベルごとの到達目標について解説します。
<以下略>

孝忠大輔『AI人材の育て方 先端IT人材の確保がビジネス成長のカギを握る』(翔泳社/2021)P2~3

本書はAI人材育成というトピックについて、AI人材の定義から、育成方法、そして企業の状況に応じた育成プランなど広範な内容について書かれた1冊になっています。

本書の章立ては以下のようになっています。

  • 第1章: AI人材を取り巻く現状
  • 第2章: AI人材と活用プロセス
  • 第3章: AI人材に求められるスキル
  • 第4章: AI人材の育成施策
  • 第5章: AI人材の育成
  • 第6章: 企業におけるAI人材育成
  • 第7章: 大学におけるAI人材育成

本書から得た学び

本書から得た学びは以下の3点です

  • AI人材育成のための模擬演習プログラム
  • AI人材の育成は育成目標に到達したかのチェックもセットで考える
  • 組織の段階ごとのAI人材育成

順を追って解説していきます。

AI人材育成のための模擬演習プログラム

研修で学んだ知識を実際に使えるスキルとして定着させるためには、模擬演習を通して何度もアウトプットを作成することが必要になります。

孝忠大輔『AI人材の育て方 先端IT人材の確保がビジネス成長のカギを握る』(翔泳社/2021)P119

人材教育といえば、Eラーニングや研修、OJTなどが一般的かと思いますが、研修とOJTの中間に「模擬演習プログラム」という位置付けの教育があります。

模擬演習プログラムには、以下の4通りがあります。

  • PBL演習
  • プロトタイプ開発
  • アイデアソン
  • 分析コンテスト

それぞれについて簡単に解説いたします。

PBL演習

PBL(Project Bases Learning)演習とは、模擬プロジェクトを通して、自ら問題を発見し解決する能力を養う、要はロールプレイのような演習です。

PBL演習は、以下のようなステップで進められます。

  • テーマ確認
  • 課題定義
  • AI企画
  • AIモデル開発
  • AI導入提案

課題に対するヒアリングやAI導入提案をプロジェクト責任者役に対して行うなど、現場さながらの動きをしながらAI企画・実証・開発の推進方法について学んでいきます。

プロトタイプ開発

プロトタイプ開発は、試作品の開発を通して、AIシステム開発を模擬体験するプログラムとなっており、先ほどのPBL演習が企画や実証にある程度の重きを置いている演習であるのに対して、プロトタイプ開発は開発の方に重きを置いている演習になっています。

プロトタイプ開発は以下のように進行します。

  • テーマ確認
  • AI試作品要件定義
  • AI試作品設計
  • AI試作品開発
  • AI試作品動作確認

要件定義・設計・開発・動作確認(=テスト)とあるように、プロトタイプ開発がAIエンジニアやシステムエンジニアなどのテック寄りの演習であることが分かります。

このような演習を通して、AIシステム開発の難しさや利用するユーザーに向けたUX開発など、開発視点で多様な学びを得ることができます。

アイデアソン

アイデアソンとは、AI活用アイデアを競い合いながらAI企画を模擬体験するプログラムであり、大学生時代にあった「ビジネスコンテスト」のAI版です。

アイデアソンは実際には開発するわけではないですが、AIのビジネスインパクトを考慮するスキルと実現可能性について考えるAIに関する知識が必要となるため、AI開発とビジネスの橋渡しをするAI活用人材の育成に向いているという特徴があります。

アイデアソンは以下のような流れで進行します。

  • テーマ確認
  • ディスカッション
  • 発表資料作成
  • アイデア発表
  • アイデア評価

アイデアベースで演習をすることができるので、AI開発の経験がないユーザー側の立場の人も参加することができる、間口が広い演習になります。

分析コンテスト

分析コンテストとは、AIの予測精度を競い合いながらAIモデル開発を模擬体験するプログラムであり、KaggleやSIGNATEを社内で実施するイメージ、または、KaggleやSIGNATEなどのコンペティション位に社内チームで参加しよう、というような施策です。

本演習はAIエンジニアに絞った演習となっており、AIエンジニアがAIモデル開発をする際に必要なさまざまな知識(特徴量エンジニアリング、モデル選定、ハイパラ調整)をある種ゲーム感覚で学ぶことができる演習となっています。

分析コンテストは、以下のような流れで進行します。

  • コンテスト内容確認
  • データ分析
  • 予測結果提出
  • スコア確認(順位確認)
  • 上位入賞者の分析内容確認

KaggleやSIGNATEなどに参加することによって、データ分析に関する広大な海の中で有用な知見を得ることができたり、社内コンペを開催することによって社内のデータをもとに分析する経験を積むことができ、業務応用性が高いという、社外コンペでも社内コンペでも利点があるような演習になっています。

研修は机上の空論だし、OJTは実践的すぎる、という場合には上記のような模擬演習プログラムを挟むのがAI人材にとって程よい成長の機会になります。

AI人材の育成は育成目標に到達したかのチェックもセットで考える

本書においては、各AI人材にどのようなスキルが必要で、ロールとしてどのようなタスクが割り振られ、そのためにどのような育成施策を実施すべきかが記載されています。

それだけではなく、各AI人材の中でも3つのレベル(初級者・中級者・上級者)に区分し、それぞれのレベルごとに何ができればそれぞれのタスクに対して目標達成といえるのか、その目標達成をどのように判断するのかについても記載がなされています。

人材育成においては、ともすると研修を実施することで育成施策をやり切った風になってしまったり、それ以降の育成については各部門に任せる!のような投げやり施策になってしまいがちです。

本書においては人材が育成したといえるためにはどのようにチェックポイントを設け、それをどのような人がどのように判断すべきなのかについても明言されています。

組織の段階ごとのAI人材育成

本書においては、企業がAI人材育成のどのフェーズにいるのかによって、どのような人材をどのように育てるべきかについて言及されています。

実際、AI人材が社内に多くないうちに手広くAI人材を育成しようとしても、リテラシーレベルからの教育や数多くのAI人材候補の中からトップ人材を選定するのにも時間がかかってしまい、長い時間をかけたにも関わらず全社的なAI活用プロジェクトを進められる状態にはなっていない、というような状況が発生してしまいます。

そのような事態を避けるためにも、AI人材育成の進め方としては、企業の状態ごとに以下の3つの3段階に区切っています。

  • AI人材のほとんどいない「黎明期」
  • AI人材が少しずつ増えてきた「発展期」
  • AI人材が豊富に在籍しており、安定してAIプロジェクトを進められる「成熟期」

それぞれの段階における育成施策の詳細については本書に譲りますが、上記のような段階ごとの育成施策に加えて、本書においては

  • 企業ごとに必要なAI人材の明確化
  • AI人材目標数の設定方法

についても記載がなされています。

「企業ごとに必要なAI人材の明確」も、企業におけるAI人材が必要な理由や外部ベンダーとの関わりの有無から決めていく必要があり、非常に面白いのですが、本記事においてはもう一方の「AI人材目標数の設定」について簡単に説明します。

AI人材目標数の設定

AI人材の目標数の設定にも、企業ごとにやり方が2パターンあります。

  • AIを活用する事業会社の場合の算定方法
  • AI専門会社やITベンダーの場合の算定方法

それぞれについて見ていきましょう。

AIを活用する事業会社の場合の算定方法

AIを活用する事業会社の場合は、以下のような数式で育成するAI人材数を算出します。

$$AI人材数 = AI活用を浸透させたい部署数 \times 部署あたりの必要AI人材数$$

上記のように設定すれば、会社全体としてAI人材が不足するような事態にはなりませんし、特定の部署に限ってAI人材がいない、という事態も避けられます。

一方で、「各部署にどの程度のスキルレベルのAI人材を配置する必要があるか」についても議論が必要となるため、上級者・中級者・初級者をざっくりとした比率(例えば1:2:7など)で概算し、その比で全体のAI人材数を按分するようにして育成施策を組み立てていきます。

AI専門会社やITベンダーの場合の算定方法

AI専門会社やITベンダーは事業会社と違って、「それぞれの部門にAI人材が何人いたらいいよね」という考え方ではなく、そもそもAI人材自体が稼ぎ頭なので、別の計算方法でAI人材数を算出する必要があります。

$$AI人材数 = 将来のAI事業の売上目標 \div AI人材1人当たりの売上金額$$

つまり、売上目標と1人当たり売上単価からAI人材数を計算する、というかなりの人月商売的な計算方法です。

単価上昇ができない限りは人がいればいるほど売上自体は拡大するので、このような発想になるでしょう。

本書からいえることは、「どのようなAI人材を育成するか」「どれだけのAI人材を育成するか」「どのようにAI人材を育成するか」は企業のAI人材育成の目的や状況などによって変わってくるもので、企業自身の現状を把握することによって結果としてAI人材育成施策として、どれだけの規模で何をやるべきかが決まってくる、ということです。

まとめ

本記事では、AI人材の道標的書籍『AI人材の育て方 先端IT人材の確保がビジネス成長のカギを握る』を読んで得た学びについて3つ厳選してお届けいたしました!

本書籍が出版された当時とは状況が変わり、昨今は生成AI活用人材の育成も盛んになってきています。

とはいえ、生成AIの裏側にはもちろんですが従来のAIに通底する概念があるので、高度AI人材になれば本書に記載のある育成施策と大きくは変わりません。

自社のAI人材育成が業務範囲の方は、適宜参考にするガイドとして本書を手元に置いておくことをお勧めいたします。

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