組織成長のための理論を体系的に学べる!「コア・テキスト 組織学習」から得た学び

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元教師
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こんにちは!データサイエンティストの青木和也(https://twitter.com/kaizen_oni)です!

今回の記事では、組織学習について体系的に学べる1冊「コア・テキスト 組織学習」について、私が得た学びについて紹介していきたいと思います。

本書は組織学習論という学問について分かりやすく理論立てて学べる骨太な1冊となっています。

組織を運営している方やこれからチームビルディングしていく方には参考になる書籍かと思いますので、ぜひ参考にしていただけると幸いです!

本書の概要

本書は、この二、三十年、国内外で急速に研究者及び実務家の関心を集めるようになった組織学習論に関する入門的なテキストです。

安藤史江『ライブラリ 経営学コア・テキスト=5 コア・テキスト組織学習』(新世社/2022) P1

本書は組織学習論についてミクロ・マクロな視点から俯瞰できる1冊です。

本書では理論的な部分を中心的に扱いつつも、理論だけに傾倒しすぎず、現実のビジネスにおける具体例なども豊富に組み込まれている良書です。

ゆっくり読んでいけば組織学習論についてしっかりと理解することのできる1冊であるといえます。

組織学習論とは言いつつも、個人としての学習について簡単に触れられており、学習という営みについて個人・組織の両面から理解ができる点も本書の優れている点といえます。

本書の章立ては以下のとおりです。

  • 組織学習論とは
    • 組織学習論を学ぶ
    • サイクルで捉える組織学習
  • 組織学習メカニズムの全体像を把握する
    • 組織の学習効果を高めるには
    • 組織の学習活動に伴うジレンマ
    • 学習のジレンマを克服するために
  • フェーズ別のマネジメントを学ぶ
    • 第1フェーズ: 知識の獲得
    • 第2フェーズ: 知識の移転
    • 第3フェーズ: 情報の解釈
    • 第4フェーズ: 組織の記憶
  • 組織学習論のこれから
    • 組織学習論のこれから

章立ての内容を見ていただいてわかるように、まずは組織学習論の概要とマクロ的な視点から理解をし、第3部で組織学習論のサイクルの詳細部分について見ていくような構成となっています。

学びを得たポイント

私が組織学習論ないし「学習」という観点で学びを得たポイントは以下の3つです。

  • 試行が多くともそこに学習がなければ学習曲線を下ることはできない
  • 知識の移転には「信頼」「共通経験や文脈」「必要性の理解」などさまざまな壁を突破する必要がある
  • 低次学習、高次学習、直接学習、間接学習など学習にも多様なスタイルがあり、組織または個人は意図的に多様な学習を使いこなす必要がある

順を追って解説していきます

試行が多くともそこに学習がなければ学習曲線を下ることはできない

学習曲線とは、試行回数を重ねるにつれてエラー数や実行完了までにかかる時間が短縮されるような、学習の速さについて描画した曲線のことを言います。

一方で、実際の学習曲線は上図のような指数関数的グラフであるとは必ずしも限りません。

コストが低下するまで時間がかかるS字型を描いたり、全く進歩が見込めない階段の踊り場(プラトー)が存在するようなジグザグ型の線を描いたりと、なかなか順調に下がってくれないケースも見られます。

過去の成功体験に囚われてしまうことによって環境や状況の変化に対応することができず、逆に学習曲線が上昇してしまうような凸型を描くこともあります。

そして、私のような「学習を積み重ねていればいつか大きく成長できる」と考えている人間に釘をズドンと打ち込んだ本書の一節があります。

学習曲線における効果の引き出し方:

試行が増えても、そこに学習がなければ、カーブを下れるとは限らない。

安藤史江『ライブラリ 経営学コア・テキスト=5 コア・テキスト組織学習』(新世社/2022) P71

つまりは、経験の中から何らかの気づきを得て、考え方や行動の変容として取り入れなければ、学習の結果としてのコスト・時間の低減などにはつながらない、ということです。

行動量が多いことによって結果として気づきが多い場合は良いのですが、行動【だけ】で学びを伴わないケースでは学習曲線が低下しないどころか、行動の結果に対して過学習してしまった場合には学習曲線が上昇してしまうことすらあり得ます。

上記のような状態は闇雲に迷路を進んでいるような状態に近いとも考えられます。

【全く学習をしなければ】元きた道を覚えるようなことはしないので、最悪の場合、迷路のスタート地点に戻ってしまうことすらあり得ます。

このようなケースは学習曲線を上昇している状況と言えるでしょう。

知識の移転には「信頼」「共通経験や文脈」「必要性の理解」などさまざまな壁を突破する必要がある

本書における組織学習は大きく分けて次の4つのステップをサイクル的に繰り返すことによって行われます。

  • 知識の獲得
  • 情報の移転
  • 情報の解釈
  • 組織の記憶

全てのステップにおいて、本書は丁寧かつ示唆深い内容が記述されているので、詳しくは本書を手に取っていただくとして、本記事においてはその中でも「情報の移転」について、企業内でデータ活用の研修講師をやっている私が多くの学びを得たポイントを紹介いたします。

送り手・受け手に関する要因

情報の移転においては、情報の性質(形式知として伝えやすいのか、暗黙知化されていて伝わりにくいのか)も去ることながら情報を発信する側と情報を受信する側自身の性質が強く影響します。

送り手・受け手に関する要因としては以下の2つが挙げられます。

  • モチベーションの高さ
  • 行為者の能力

上記2つを研修実施者の視点で考えると、以下2点のように表現することができます。

  • 受講者のモチベーションを受講前または受講中にどのようにして高めることができるか
  • 受講者の「吸収能力」はコントロールできないものとして、いかにして受講者に身につけてほしい内容を噛み砕いて説明できるか

特に企業研修においては気をつけるべき点としては「モチベーション」という観点は重要だなと感じました。

「研修を受けることによって、会社というマクロな目線だけでなく、受講者本人がベネフィットを得るためにはどのように動機づけを行えばいいか」などの受講者個人としての動機づけを喚起できるかどうかを考えて研修を実施することが、結果として受講者の学びになる研修を行う上で重要なことだとひしひしと感じています。

送り手・受け手の関係性に関する要因

そして、もう一つ落とし穴なのが、送り手と受け手の関係性が情報の移行に影響を及ぼすという点です。

これは、皆さんの学生時代を思い出してもらうとわかりやすいかもしれません。

例えば、「自分が比較的好きだなと思う人の教科の内容はスッと頭に入ってくる」というような経験はありませんか?

そのように、情報の内容や送り手・受け手の能力・モチベだけでなく、関係性も情報移転がうまくいくかどうかに関わってくるのです。

情報の移転に関する要因として、以下の3つが挙げられます。

  • 互いの信頼関係
  • 共通の経験やコンテクスト
  • 価値や必要性への理解

つまりは、情報の移転が適切に行われるためには、受け手・送り手が以下のような関係性にあることが望ましいということです。

  • 受講者が講師のことを有識者として信頼している
  • 共通の経験があることで、形式知のみならず暗黙知についても伝わりやすい状態にある
  • そもそも情報の移転がなぜ必要であるのかを双方ともに認識している

研修講師としては、受講前または研修中に上記のような受講者との間の環境整備をどこまで行うことができるかが、研修におけるスムーズな情報移行のための要になるのだと再認識しました。

また、「価値や必要性への理解」における以下一節についても肝に銘じなければと思わされました。

自分にとっては重要でも、相手も同じように受け止めるとは限らないということを大前提とした上で、自らが信じるその知識の価値や必要性を受け手に対して丁寧に説明し、その納得を引き出すことが重要になるのです。

安藤史江『ライブラリ 経営学コア・テキスト=5 コア・テキスト組織学習』(新世社/2022) P174

研修講師をしていると、そもそも研修を企画しているのだから、その研修の内容自体が重要であることは暗黙の前提となってしまいがちです。

一方で、受講者にとってはそのような認識ではなく、「なんとなく気になったから申し込みをしてみた」「上司が受けろというので受けに来た」のような、研修内容自体の重要性をあまり認知しないままに研修に参加するパターンは往々にして存在します。

そのような時にも、受講者の立場に立って丁寧に研修内容の重要性を伝え、納得を引き出すことが受講者のモチベーションを引き出し、受講者との関係性を築いていくことにつながるのだと、本書を読んで再認識しました。

低次学習、高次学習、直接学習、間接学習など学習にも多様なスタイルがあり、組織または個人は意図的に多様な学習を使いこなす必要がある

まずは、それぞれ対比になる言葉の意味を把握するところから始めましょう。

低次学習と高次学習

低次学習とはシングル・ループ学習/一次学習とも呼ばれ、経験が溜まっていくにつれて生産性が向上していくような学習のことを指します。

毎日バットを素振りしていれば、体がスイングのフォームを覚えて、打席に立った時もスムーズにバットを振ることができる、というような状況は低次学習にあたります。

一方で、誤ったフォームで覚えてしまうと、素振りをするたびにその間違ったフォームが強化されてしまうため、後からフォームの修正をするのは難しくなります。

それでも、今のところそのフォームで打てているのだから、一旦はこのまま練習を続けよう、と間違ったフォームでの素振りを続けてしまうケースも考えられます。

このように、低次学習は一時の成功によるバイアスが働いて、間違った方法または環境が変わっているにも関わらず古い方法で経験を積み重ねてしまう恐れがあります。

一方で、高次学習とはダブル・ループ学習/二次学習とも呼ばれ、低次学習による生産性の向上をきっかけとして副次的に発生する混乱を伴う学習のことを指します。

例えば、素振りを続けたことによって打率が上がり、中学野球では大活躍できたために高校では野球部が有名な高校に入学できたとします。

すると、練習メニューは中学とは全く違うメニューとなり、素振りのフォームの矯正や守備の練習の徹底など、今までとは異なったメニューをこなす必要性が出てきます。

素振りのフォームの矯正によって、しばらくの間はフォームが安定しないため、中学の頃よりも打率が落ちてしまうことが考えられます。

ですが、その後フォームをきちんと矯正したおかげで安定してヒットを打つことができるようになり、結果として中学の頃よりも打率が高くなる、なんてことが起きたりします。

上記の例のように、高次学習は短期的には混乱をもたらすものの、長期的視点で見ればより一層の発展をするために必要不可欠と言える学習のことを指します。

直接学習と間接学習

直接学習とは、学習者が自ら行動し主体的に経験した中から学ぶ学習のことを指します。

一方で、間接学習とは他者の経験から学ぶ学習のことを指します。

お金の稼ぎ方、というのを学ぶ際に、まずはバイトを始めてみるのが直接学習、両学長の「お金の大学」という書籍を読んで学ぶのが間接学習と言えるでしょう。

学習をどのように組み合わせるべきか

ここまでで学習の種類について整理をしてきましたが、結局のところ我々はどのようにして学習を進めるべきなのでしょうか?

本書の中でもこの問いに対してある程度の回答を用意していただいているので、紹介をしていきたいと思います。

低次学習と高次学習は「車輪の両輪」

結論としていえば、低次学習と高次学習はどちらか一方が明らかに優れているということはなく、両者があってこそ適切に組織が発展していくことができます。

低次学習は短期的に組織に利益をもたらす、既存知識や事業知識の「活用」学習と考えられており、後々に高次学習を行うにしても、それができるだけの土台を低次学習によって効率化された行動によって構築する必要があります。

一方で、高次学習は長期的に組織の競合優位性に結びつく「探索・開発」学習と考えられています。

低次学習で効率化された行動だけを行なっていては、いつか金脈が力尽きてしまう、いわば短期的に獲得可能な効率性だけでは競合に対していつまでも優位なポジションを取ることはできないのです。

そのため、一時的な生産性低下やコスト・リスクがあるにしても、長期的な競争優位性獲得のために高次学習を意図的に発生される必要があるのです。

直接学習と間接学習の限界

直接学習と間接学習には双方ともに限界があります。

例えば、直接学習についていえば、全てを自身で経験しようとするには時間的・金銭的コストがかかります。

全ての国を回ろうと思ったら莫大な資金か莫大な時間のどちらかが必要なのはいうまでもありません。

また、直接学習にはリスクが伴う場合もあります。

いくら世界最高峰の山に登ることを今年の目標に立てたからと言って、その日にいきなり日本を出発して軽装備でエベレストに挑むのは死ににいくようなものです。

一方で、間接学習にも限界はあります。

自身が経験していない分、間接学習で学習した内容は適用範囲が限定的であったり、表層的であることがままあります

例えば、「未経験から誰でもデータサイエンティスト!」と謳ってワナビーデータサイエンティストを養成してSESとして企業に送り出すようなスクールビジネスの例を考えてみましょう。

このようなスクールで身につく「データサイエンス」のスキル(簡単な統計とSQL/Pythonプログラミング)は限定的・表層的スキルであるため、ビジネス現場に駆り出されると実際に求められるデータサイエンスのスキル(関係者を巻き込んで分析プロジェクトを遂行するスキル、社内データという整っていないデータをせっせと分析可能な形に加工するエンジニアリングスキル)との乖離が大きく、現場で使えない子認定されてしまう可能性が少なくありません。

直接学習と間接学習の組み合わせ

前述のようにそれぞれ限界が存在する直接学習と間接学習ですが、両者の学習を組み合わせることによって効果的な知識獲得が可能になると考えられています。

ビンガムらが行なった研究によれば、国際進出の最中であるITベンチャー企業の学習のスタイルについて追跡調査を行なったところ、面白い事実が明らかになりました。

ベンチャー企業の学びのスタイルは大きく分けて2つに分類できました。

1つ目が直接学習からスタートし、継続して直接学習を行う「単独型」、

もう1つが間接学習から始まりその後は直接学習にシフトする「種まき型」です。

ビンガムらの研究によると単独型の方が短期的には優れた業績を示す一方で、長期的なスパンでは種まき型の方が優れた業績を示しました。

単独型が直接学習の数と種類が収束する傾向があるのに対し、種まき型は次第に直接学習の種類が増え、間接学習と直接学習の往復が発生していることが確認されました。

ここまで述べてきたように、学習のスタイルというのはそのどちらかに偏ることなく、バランスよく行うことが長期的な成長・利益に対しては有効であることが本書から確認できたかと思われます。

まとめ

今回の記事では、「コア・テキスト 組織学習」について、私が得た学びを例示を交えて紹介いたしました。

本書では本記事で説明した以上に、体系的に組織学習について論ぜられています。

その内容も学術書ほど難しすぎず、ビジネス書ほど簡単すぎない絶妙なバランスの書籍になっているので、本記事で興味を持たれた方はぜひ購入されることをお勧めいたします!

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