現代の組織はかつての日本軍と同じ?書籍『失敗の本質: 日本軍の組織論的研究』から得た学び3選

書評
元教師
元教師

こんにちは!データサイエンティストの青木和也(https://twitter.com/kaizen_oni)です!

今回の記事では、組織論の書籍としても位置付けられている名著『失敗の本質: 日本軍の組織論的研究』から私が得た学びを3選ご紹介したいと思います!

「昔の話でしょ?」と侮るなかれ、本書には現代の組織のあり方にも通じる学びが豊富に散りばめられていますので、「うちの組織ってこれでいいのかな?」と少しでも思った方がある方は本書を読まれることをお勧めいたします。

本書を読むことを検討されている方は、本記事を読んで、現代における本書の良さを感じていただけると幸いです!

本書の概要

今日の平和と繁栄を維持していくうえで、大東亜戦争の経験はあまりにも多くの教訓に満ちている。
戦争遂行の過程に露呈された日本軍の失敗を問い直すことは、その教訓にかなり重要な一部を構成するであろう。

戸部良一/寺本義也/鎌田伸一/杉之尾孝生/村井友秀/野中郁次郎『失敗の本質 — 日本軍の組織論的研究』(2019/中央公論新社) P14

本書は、大東亜戦争における日本軍の失敗事例を豊富に取り上げながら、日本軍のどのような点が敗戦という結果を招いてしまったのかに迫る、ある種組織論の本に分類される書籍です。

本書の内容は日本軍という「昔ばなし」でありながらも「あれ、これって現代の日本でも同じ部分あるんじゃないか、、、?」と、身につまされる書籍となっています。

そのため、刊行自体は古い本でありながらも、学び取ろうと思えばいくらでも学びを得ることができる良書となっています。

本書の構成は以下のとおりです。

  • 序章: 日本軍の失敗から何を学ぶか
  • 1章: 失敗の事例研究
    1. ノモンハン事件 — 失敗の序曲
    2. ミッドウェー海戦 — 海戦のターニング・ポイント
    3. ガダルカナル作戦 — 陸戦のターニング・ポイント
    4. インパール作戦 — 賭の失敗
    5. レイテ海戦 — 自己認識の失敗
    6. 沖縄戦 — 終局段階での失敗
  • 2章: 失敗の本質
  • 3章: 失敗の教訓

1章の失敗の事例研究は長く、少し読みづらい部分もありますが、そこまでの事例紹介があってこそ、2章/3章での事例を受けての畳み掛けに価値が生まれてくるので、ぜひ事例部分もしっかり読まれることをお勧めいたします。

本書から得た学び

本書から得た学びは以下の3つです。

  • 勝ちから勝ちパターンを学び、負けから負けパターンを学ぶことの重要性
  • お気持ちの意思決定は後々痛い目を見る
  • 戦争における「過学習」

順を追って解説していきます。

勝ちから勝ちパターンを学び、負けから負けパターンを学ぶことの重要性

本書において、大東亜戦争で敗けた日本軍と勝利した米軍は以下のように対比されています。

日本軍は、個々の戦闘結果を客観的に評価し、それらを次の戦闘への知識として蓄積することが苦手であった。
これに比べて、米軍は一連の作戦の展開から有用な新しい情報をよく組織化した。
とくに、海兵隊は水陸両用戦の知識を獲得していく過程で、個々の戦闘の結果、とりわけ失敗を次の作戦に必ず生かしてきた。

戸部良一/寺本義也/鎌田伸一/杉之尾孝生/村井友秀/野中郁次郎『失敗の本質 — 日本軍の組織論的研究』(2019/中央公論新社) P389

日本軍は、ミッドウェー海戦、沖縄戦などの数々の戦いで敗走し、結果的に大東亜戦争に敗戦するわけですが、その敗北の随所で敗北の要因を顧みることを軽んじていたことが当時の将校たちの発言からわかっています。

とくに、私が衝撃を受けたのが、ミッドウェー海戦での敗戦後に通常行われるべき作戦戦訓研究会、つまりは戦争振り返り会が行われなかったことに対する作戦担当黒島先任参謀の回顧です。

本来ならば、関係者を集めて研究会をやるべきだったが、これを行わなかったのは、突っつけば穴だらけであるし、みな十分に反省していることでもあり、その非を認めているので、いまさら突っついて屍に鞭打つ必要がないと考えてからだった、と記憶する

戸部良一/寺本義也/鎌田伸一/杉之尾孝生/村井友秀/野中郁次郎『失敗の本質 — 日本軍の組織論的研究』(2019/中央公論新社) P329

人が生き死ぬ戦争で、なおかつ敗戦を喫したにも関わらず「みんな反省してるから、いいよね」というお遊び部活の大会後のような認識でいたことに衝撃を受けました。

上記の発言から考えると、彼らにとっての「作戦戦訓研究会」はお気持ち反省会としての位置付けしか持っておらず、「過去の戦争から学びを得て、次に生かす」という発想はことごとく欠如していたことが分かります。

一方のアメリカは、真珠湾戦争にて敗けた際には、海戦における重要な点は艦隊 vs 艦隊ではなく航空戦であることを認識して海戦のあり方を変えたり、ガダルカナル作戦においては水陸両用部隊を試験導入し、戦争における有効性を検証したりするなど、常に学びのサイクルを繰り返していたことが伺えます。

個人としても、組織としても「学ぶことを止めたら負ける」という怖さを本書からひしひしと感じました。

お気持ちの意思決定は後々痛い目を見る

作戦戦訓研究会がお気持ち反省会的な位置付けであったように、日本軍の意思決定では「お気持ち」や「お察し」、「人情」的な意思決定が頻繁に見られます。

例えば、以下のような例が挙げられます。

  • インパール作戦にて、第一線の指揮官はやる気満々だが、食料調達は「現地の敵から奪えばいい」等のめちゃくちゃ楽観的作戦すぎて、本部はNGを出していたが、第一線指揮官の上官が本部に「彼の顔を立ててやってくれ」と進言し、本部も「何言っても無駄やな」と諦めて、結局多大な犠牲を出した
  • インパール作戦にて、第一線の指揮官は敗戦濃厚だと分かっていて、もう作戦を中止にしたかったが、後押ししてくれた上官の訪問の際にそれを言い出せず、「私の顔色で察してもらいたかった」とめんどくさい恋人のようなことを言っている
  • 台湾沖航空戦にて、「めっちゃ敵艦隊に打撃与えた!」という報告を新聞等で広めたが実際には全然ダメージ与えられていなかった、かつ、海軍は偵察によってその事実に気づいていたが「わざわざ言わんでもいいよね、、、」と報告をしなかったため、のちのレイテ海戦にて敵戦力を見誤った
  • ノモンハン事件にて、国境維持が任務の現地軍がめちゃくちゃ攻め込もうとしている、かつ結構勝ち目ない状況において、本部は「軍備を制限してね」のような曖昧な言い方で戦争中止をそれとなく匂わせたが、現地軍は無視しまくって多大な犠牲を出した

上記のように、戦争という人の生死がかかった事象であるにも関わらず、「彼の顔を立ててやってくれ」だの「顔色で察しよ」だの「みんなお祝いムードだし、ムードぶち壊すの嫌だな〜」だの「軍備は制限って、戦争中止してって意味に決まってるじゃーん」という戦争というよりかは学生の仲間内のようなコミュニケーションを交わしていたことが記録から分かっています。

そして、そのようなお気持ちに配慮した行動の結果として、払わなくてもよかった犠牲が発生してしまっています。

彼らは戦争において、何を優先したかったのでしょうか?

現代の我々に立ち返って考えれば、空気を読んで言うべきことを言わないのは、良いことなのでしょうか?

本書を読んで、下手に空気に流されないためには、目的や指針をしっかりと持った思考・行動・発言が重要だなと改めて考えさせられました。

戦争における「過学習」

日本軍の戦略、資源、組織がその作戦環境の生み出す機会や脅威に、いかに適合していなかったかが示された。
これらの失敗の原因をつなぎ合わせて、その最も本質的な点をつきつめていくと、まことに逆説的ではあるが、「日本軍は環境に適応しすぎて失敗した」、といえるのではないか。

戸部良一/寺本義也/鎌田伸一/杉之尾孝生/村井友秀/野中郁次郎『失敗の本質 — 日本軍の組織論的研究』(2019/中央公論新社) P349

上記引用文は、先に述べた「日本軍は勝ちから勝ちパターンを学ばないし、負けから負けパターンを学ばない」という話と矛盾しているようにも感じられるかもしれません。

ただ、この話は「早い段階で偏った勝ちパターンに過剰に適合してしまった」ことが問題なのです。

書籍『失敗の本質』では、敗戦を中心に戦時中の日本の組織のあり方について切り込んでいますが、日本はそれまで全ての戦争に負けてきたわけではありません。

日露戦争においては、西南戦争から引き継がれし「白兵戦$\fallingdotseq$肉弾戦」で日露戦争最後の勝利を納めています。

日本海海戦においては、日本の艦隊がロシアのバルチック艦隊に壊滅に追い込んでおり、日本の圧倒的勝利といえます。

一方で、そのような勝利は時に彼らの視野を固定してしまうことにもつながるのです。

日露戦争で肉弾戦が有効であることに味を占めた日本軍は、他軍が戦車のような装甲車の開発を進めているのに対して、「銃剣突撃主義」という野蛮な戦法に執着し、肉弾戦に挑む「気合い」をも重視するようになります。

バルチック艦隊を壊滅に追い込んだ海軍は、真珠湾攻撃の経験からアメリカが航空戦を重視し出すのに対して、「艦隊決戦主義」という重ための戦略を好むようになります。

上記のようなパラダイムの固定は、仕組み化・軍備・食糧・戦略などの軽視につながることとなり、成功体験がゆえに敗戦へと一直線に転がり落ちていくこととなります。

つまり、偏った学習は今この瞬間の状況にそぐわない考え方を植え付けてしまうのです。

パフォーマンス・ギャップがある場合には、それは戦略とその実行が環境変化への対応を誤ったかあるいは遅れたかを意味するので、新しい知識や行動様式が探索され、既存の知識や行動洋式の変更ないし確信がもたらされるのである。

戸部良一/寺本義也/鎌田伸一/杉之尾孝生/村井友秀/野中郁次郎『失敗の本質 — 日本軍の組織論的研究』(2019/中央公論新社) P347

環境変化の激しい現代こそ、「昔取った杵柄」で仕事をしていけるほど甘くはなく、積極的に個人レベル・組織レベルで既存をぶっ壊し、新しきを試していくことが必要となるのです。

まとめ

今回の記事では、組織論の書籍としても位置付けられている名著『失敗の本質: 日本軍の組織論的研究』から私が得た学びを3選ご紹介していきました!

本記事から、日本軍においては意思決定の方法や組織としての学びのあり方が十分に確立されていなかったことがお分かりいただけたかと思います。

本書には、上記に加えて、日本軍と米軍との対比による、戦争の勝敗を分けたものについても詳細に分析されているので、「組織が失敗しないためには」について知りたい方はぜひ本書を手に取っていただけると幸いです!

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