こんにちは!データサイエンティストの青木和也(https://twitter.com/kaizen_oni)です!
今回の記事ではユニクロ代表取締役柳井正さんのバイブルとも言える書籍「プロフェッショナルマネジャー 58四半期連続増益の男 ハロルド・ジェニーン」について、私が当書籍を読む前と読んだ後で変わった認識、データサイエンスの視点で学び取れるジェニーンの洞察について紹介したいと思います!
「経営者は経営しなくてはならぬ」という言葉にも表れている通り、プロフェッショナルマネジャーとして会社に全力で向き合ったジェニーンの経営哲学も去ることながら、「経営者としてデータにどう向き合うか」というリーダーやマネージャーへのデータリテラシー的な部分でも非常に重要な示唆があり、データサイエンティストの私が読んでも非常に学びのある本でした!
皆さんもぜひ本書籍を読む前の参考にしてみてください!
本書を読む前の私の理解
本書を読むきっかけは何かの本に「プロフェッショナルマネジャーの洞察は鋭い」という旨のことが書いてあり、興味本位で注文をしたのがきっかけでした。
一方で「プロフェッショナルマネジャー」については全くもって予備知識がなく、この書籍から私が学べるであろうことについても何の予見もありませんでした。
本書を読んだ後の私の理解
本書を読んで、この本は経営者であったり起業家という属性になりたい人のお尻をムチでビシバシ叩く本であることが分かりました。
ハロルド・ジェニーンの経営哲学はかなりの体育会気質で「経営者は経営せねばならぬ」、つまり目標を達成するためであれば人より多く働いたり、目的を達成するための取りうる行動は全て取り(決して汚いことに手を出すという意味ではない)、目的を達成できないのであればそれは君が経営者ではないのと同義、ぐらいのことを言ってのける方です。
一方で、何も根性論で経営してきた人、というわけではなく、数字を非常に重視しており、企業のあらゆる数字を常に追うことによって、数字の背景にある現象や変化を察知し、それらに対処することによって会社にとってよくないサプライズを防ぐ、というような理にかなった経営者でもあることが本書から読み取れます。
つまりは、58四半期連続で増益を遂げている会社の代表取締役の、ポエムや抽象的な経営論ではない、生の経営者の話を聞くことができるのが本書なのです。
本書で心に突き刺さったこと2選
本書を通して私の心に突き刺さった内容は以下の2つです。
- ジェニーンの人生を大きく変えた「ビジネスで成功したかったら、(中略)自分が属する場所で上位20%のグループに入ることが必要だ」という言葉
- ジェニーンの考える数字の意味するもの
順を追って説明していきたいと思います。
「ビジネスで成功したかったら、(中略)自分が属する場所で上位20%のグループに入ることが必要だ」
これはジェニーンがまだ20代の頃のニューヨーク大学夜間部のフービンガーナー教授がクラスの学生たちに度々行っていた忠告です。
諸君がビジネスで成功したかったら、自ら選んだにせよ、めぐり合わせで身を置くことになったにせよ、自分が属する場所で上位20%のグループに入ることが必要だ
ハロルド・ジェニーン『プロフェッショナルマネジャー』(プレジデント社/2010) 第3章 経験と金銭的報酬 P54より
これは所属する集団の中で上位20%に入っていればレイオフされることはない、という消極的目線と捉えることもできれば、平均を上回る成績や成果をコンスタントに出し続けていれば、昇給や昇格が行われないはずがないというキャリアに対して積極的に立ち回る際にも響く言葉といえます。
また、同ページにはジェニーンが求人面接に行った際に経験が不足しているからダメだったはずだという旨の発言をした時のフービンガーナー教授の言葉も載っており、この時の言葉もなかなかどうして自分の心に突き刺さりました。
「なあに、誰だってはじめは経験不足で、それからだんだん経験を積んでいくんだ」。そこで彼はいったん言葉を切り、私の目を見て言った。「ただ、十分な経験を積むまでに、たいてい年をとりすぎてしまうのさ。」
第3章 経験と金銭的報酬
この言葉は、誰だって経験不足からスタートしているのだから、何度でも経験すればいい、という励ましの意味を含みつつも、「とはいえ、早く経験を重ねなければ年寄りになってから経験を持っていても仕方がないよ?」という煽りと言えるほどの破壊力を持った言葉となっており、人生における経験と時間との重要な関係性に気づかれます。
特に、書籍内でジェニーンも「経験とは何か新しいことを発見し、学び、能力の成長と蓄積をもたらすプロセスである」と表現しているように、なんでもかんでも経験すればいいということではなく、自身の成長に寄与するような経験を早い段階で重ねることが重要であることが強調されています。
そして、この議論がジェニーンの体育会的な発想ともつながっており、成長という雪だるまを大きくするためには様々な種類の経験を人よりも多くの時間をかけて経験する必要があるということです。
複利の最大のアドバンテージは時間であることを明示する言葉であるともいえます。
ジェニーンの数字に対する考え方
ジェニーンの数字に対する考え方はデータサイエンティストの自分にとっても非常に得るものの多い、含蓄のある表現が多々出てきます。
それぞれについて自分なりの考えを付与しながら紹介していきたいと思います。
数字は体温計
数字は企業の健康状態を図る一種の体温計の役をする。それは何が起こっているかをマネジメントに知らせる第一次情報伝達ラインとして機能し、それらは数字が精密であればあるほど、また、”揺るがすことができない事実”に基づいていればいるほど明確に伝わる。
ハロルド・ジェニーン『プロフェッショナルマネジャー』(プレジデント社/2010) 第9章 数字が意味するもの P201
この一文だけでも多くの重要な示唆を含んでいます。
まずは分かりやすいところで行くと、「数字は体温計の役をする」ということ。
体温計は体に異常があるのか、療後体調はよくなっているのかなどのアラートに近い部分を把握するために重要な道具です。
体温計という絶対的な尺度がなければ、例えば常日頃から体温が高い人が熱を出している人のおでこに手を当てて熱を測っても「俺と同じぐらいの体温だから大丈夫だ!」と間違った判断を下してしまい、最悪の場合命を落としてしまうかもしれません。
今のビジネスに翻って考えれば、日毎の売り上げ推移・サイト訪問者数の減少や解約率の上昇は企業の体調が悪くなっていることを意味するアラートであるといえます。
次に重要な示唆は「”揺るがすことができない事実”に基づいていればいるほど明確に伝わる」という一節。
つまり、数字にも「元データの特性上かなり正確な情報と元データの質からして正確ではない情報」という色がついているのです。
これについては後々の段落で以下のような記述があります。
数字には数そのものと同じぐらい重要な個性がある。数字には正確なものとあまり正確でないもの、精密なものとおおよそのもの、詳細なものや平均的なものや漠然としたものがある。数字が持つそうした性質は、通常、その会社の最高経営者と、彼が部下たちから何を期待しているかによって決まる。
ハロルド・ジェニーン『プロフェッショナルマネジャー』(プレジデント社/2010) 第9章 数字が意味するもの P205
つまり、一口に数字と言っても、それらの数字の背後のストーリーの影響で数字は様々な性質を持っているのです。
そして、その点で注意すべきなのは「その数字をどのような意思決定に使うのか」ということです。
明日デートに着ていく服を決めるための明日の気温は厳密である必要はなく、周辺地域の平均気温が分かればいいですが、火災のための防護服が摂氏何度まで耐えることができるのかを考える場合の温度は正確なものでなければ最悪人が死んでしまいます。
そして、逆に目的によってどのような精度の数字が必要なのか、必要な精度の数字を実現するためにはどのようなデータをどのように集める必要があるのかを設計する必要があります。
数字は行動へのシグナル
それらの数字に表れる、期待と市場で現実に起こっていることとの格差は、行動のシグナルである。そして数字を見るのが早ければ早いほど、それだけ早く必要な処置がとれる。
ハロルド・ジェニーン『プロフェッショナルマネジャー』(プレジデント社/2010) 第9章 数字が意味するもの P202
これはKPIマネジメントの書籍等でも「信号機」という表現をしているような数字の使い方です。
そしてデータに関わる職業である自分に突き刺さるのは「行動を喚起する数字でなければ意味がない」ということです。
これは書籍「リーンアナリティクス」にも記載のあることですが、行動を喚起しないデータや可視化・分析はなんの意味も成しませんし、そのようなダッシュボードやレポートはただの無駄づかいです。
そして行動を喚起する速度が早ければ早いほど、悪い意味でのビックサプライズは起きにくく、そのようなデータを集めることによって、「気づいたら崖でした」という状況を防ぐことができるのです。
数字の背後にあるもの
しかし—-そしてこれは最も重要なことなのだが—-数字自体は何を為すべきかを教えてはくれない。それは行動へのシグナル、思考への引き金に過ぎない。それは水脈のありかを指し示す占う棒に似ている。実際に水を得るためには掘らなくてはならない。企業経営において肝要なのは、そうして数字の背後で起こっていることを突き止めることだ。
ハロルド・ジェニーン『プロフェッショナルマネジャー』(プレジデント社/2010) 第9章 数字が意味するもの P203
これは多くの人にとって、数字を報告することの意義を再度考えなければいけないことを示唆する一節だと私は考えている。
特に「前期比⚪︎⚪︎%上がりました/下がりました」のような報告は期初のキックオフなどで見られるが、その背後にはなんらかの偶然性や因果の影響、ないし様々な数字の足し算・引き算の結果としてそのような数字があるわけで、それを深掘らないことには数字を報告することの意味はない、ということにどれだけの人間が気づいているのか、とこの一節を見て真剣に考えてしまった。
少し話は逸れるが、この要素がデータサイエンティストとデータアナリストの違いなのかもしれないな、と漠然と思った次第である。
私が今後やりたいこと
本書籍を読んで、私が今後やりたいと考えていることは以下の2つである。
- 自分の所属している集団の上位20%に入るために、私は場所ごとにどういう習慣を身につける必要があるのかを考え、習慣化する
- データ可視化・分析の案件にアサインされた際には、どのような可視化・分析を行えば行動の変容を喚起できるのかをヒアリングまたは考えて実行する
上記は自身の成長の目標とする水準を定めるためにも有用である(=犬の道に陥らない)し、後者は自身がデータという切り口で顧客の課題を解決する仕事をしていく上で、本当に相手のために・企業のためになる仕事ができているのかをチェックする上でも非常に重要になってくると考えている。
そして、それ以外の経営者としての考え方の部分は、将来的に自身が副業の規模を拡大していくときに再度読んでレビューしたいと考えている。
まとめ
今回の記事では「プロフェッショナルマネジャー 58四半期連続増益の男 ハロルド・ジェニーン」について、読前と読後での認識の相違や、私が刺激を受けた一節、この本を参考に今後実行したいことなどをつらつらと書き連ねました!
文量としては少し多いものの、そのような文量を感じさせない言葉選びのフットワークの良さと、それで随所随所にバリバリ経営者の生の声、非常に含蓄のあり思考の種として参考になる部分が多々ある、という極めて良書と言える書籍でした!
皆さんも経営者のための実務書として、ビジネスマンとして気合を入れたい時の1冊として手にとって読んでみてください!
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