ID-POSデータを使ったマーケティング分析手法を学ぶ!「ID-POSマーケティング」から現役DSが得た学び

データ分析
元教師
元教師

こんにちは!データサイエンティストの青木和也(https://twitter.com/kaizen_oni)です!

今回の記事では書籍「ID-POSマーケティング――顧客ID付き購買データで商品・ブランド・売り場を伸ばす」を読んで、現役のデータサイエンティストがためになった内容を簡潔にまとめて皆さんに共有したいと思います。

コンビニやスーパーなどでPOSデータが収集されていますが、そこに顧客の性年代などの情報が紐づいたID-POSデータでは、POSデータと違ってどのような分析を行うことができるのかについて詳述されているのが本書になります。

本記事を読んで、ID-POSデータでできることについての知見を深めていただけると幸いです!

本書の概要

本書では、日常的な企画会議や営業会議で、誰もがディスカッションの資料としてID-POSを活用できるようになることを目指しています。

本藤貴康/奥島晶子『ID-POSマーケティング――顧客ID付き購買データで商品・ブランド・売り場を伸ばす』(英治出版/2020) P6

本書は、マーケティング領域におけるID-POSデータの活用方針について網羅的に書かれている1冊で、マーケティング施策を考える際にID-POSデータを活用したいと考えている方必見の1冊になります。

ID-POSデータとは、通常のPOSデータ(顧客の購買履歴について記録したデータ、Points of salesの略)に顧客個別のIDのような情報を紐づいたデータになっており、性年代ごとの購買傾向や顧客が一緒に買った商品(併売商品)や一定期間内に繰り返し買った商品(期間内併売商品)についての情報を得ることができるデータになります。

本書はそもそもなぜID-POSを使った分析が必要なのかという文脈を「短サイクル時代のマーケティング概論」という切り口から説明し、その後に現代のマーケティングが抱える課題に対してID-POSという切り口でどのような分析を行うことができるのかを明らかにしています。

本書の章立ては以下のとおりです。

  • Introduction ID-POSで何がわかり、何が変わるのか
  • Chapter 1 短サイクル時代のマーケティング概論
    • Section 1 マーケティングの基本プロセス
    • Section 2 マーケティング・リサーチは宝探し
    • Section 3 「次」につながるセグメンテーション
    • Section 4 マーケティング・ミックスのPDCA
  • Chapter 2 ID-POSの指標と分析手法の基本
    • Section 1 前提となる2つの基本指標
    • Section 2 買われ方の特徴を探る
    • Section 3 商品・ブランドの将来性を測る
    • Section 4 真の競合商品を見極める
    • Section 5 意外な販売機会をあぶり出す
    • Section 6 改善すべきポイントを探る
    • Section 7 購買のタイミングをつかむ
  • Chapter 3 ID-POSによる仮説主導マーケティング
    • Section 1 新たなポジショニングでそれまでの常識を覆す
    • Section 2 マス・プロモーションで顧客セグメントを変える
    • Section 3 市場に眠る潜在需要を掘り起こす
    • Section 4 購買行動を踏まえて店頭プロモーションを設計する
    • Section 5 リピートと新規のバランスをとり売上全体を拡大する
  • Chapter 4 店舗のロイヤル・カスタマーを育てる
    • Section 1 顧客の違いや変化を見逃さない
    • Section 2 カテゴリーの傾向を踏まえ新規顧客を囲い込む
    • Section 3 新規顧客の購買行動を把握する

Chapter2のSectionの内容を見ていただいても分かるとおり、私の当初想像していた以上にID-POSから分かる示唆は多いな、という印象でした。

つまり、マーケティング分野のデータ分析に関わっており、尚且つID-POSデータが手に入る状況にある人にとってはID-POSから分析できることについて理解を深めておくに越したことはないということです。

本書から得た学び

私は本書から以下3つの学びを得ました

  • ID-POSを使った分析その①: 併売リフト値分析
  • ID-POSを使った分析その②: PPM
  • ID-POSを使った分析その③: 流出・流入分析

順を追って解説いたします。

ID-POSを使った分析その①: 併売リフト値分析

併売リフト値分析とは、全体の顧客があるカテゴリを購買する確率と比べて、ある商品Aを買った顧客があるカテゴリを購買する確率がどれだけ高いか、という値を使って、顧客の購買傾向やペルソナを考えようとする分析のことです。

例えば、4月のマスク購入率が4月のユニーク購買者数の35%であったとします。

$$(4月のマスク買い上げ率) = \frac{4月のマスク購買者数}{全体のユニーク購買者数}$$

ここで、花粉症対策薬品を購入した人のうち、60%もの人がマスクも購入していたとします。

$$(花粉症対策薬品購入者のマスク買い上げ率) = \frac{花粉症対策薬品購入者のうちマスクを購入した人数}{花粉症対策薬品購入者数}$$

この場合の「花粉症対策薬品購入者」の「マスク」に関する併売リフト値は$60% \div 35% = 1.71$と計算されます。

そして、商品Aを購入する顧客はリフト値が1よりも大きいカテゴリの商品を他の顧客よりも購入する確率が大きいと考えることができます。

そして、そのようなリフト値が1以上の商品群を見ることによって、「商品Aを購入する顧客はどのような顧客としてペルソナを持っているのか」について考えることができるのです。

このようにして、併売リフト値を使うことによって、ある商品Aを購入する人がどのような特性を持った人であるかを併売されている商品から考えることができるようになります。

併売リフト値分析によって、例えば自社商品の併売リフト値が高い商品群と他社商品の併売リフト率が高い商品群を見比べることによって商品に対するイメージや購買者の違いについて解像度高く考えることができたり、自社商品Aにおける自社商品Bの併売リフト値を見ることによって適切にクロスセルを喚起することができているのかなどを検証することができるようになります。

ID-POSを使った分析その②: PPM

2点目にご紹介するPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)という手法は、「成長性」という外部環境に関する情報と「優位性」という自社に関する情報とをミックスさせて意思決定するための手法です。

具体的にはX軸に「相対市場シェア」、Y軸に「市場成長率」を取り、各ブランド・商品・事業などをプロットします。

その際に、プロットするときの点(円)の大きさは売上高に比例して大きくすることで、外部環境としての成長性、競合と比較したときの自社優位性、自社における各ブランドの売り上げ比率などを一目で確認することができます。

相対市場シェア率と市場成長率の計算方法

||| 自社が市場シェア第1位である時の相対市場シェア

$$相対市場シェア = \frac{自社の市場シェア率}{第2位の企業の市場シェア率}$$

||| 自社が市場シェア第1位以外である時の相対市場シェア

$$相対市場シェア = \frac{自社の市場シェア率}{第1位の企業の市場シェア率}$$

||| 市場成長率(例)

$$市場成長率 = \frac{今年・今月の市場全体の売上}{前年・前月の市場全体の売上}$$

なお、各領域ごとに名前がついており、右上の相対市場シェア率もよし、市場も成長しているというまさに大期待株は「花形(star)」と呼びます。

一方で、成長率はそこまで高くはないものの、自社市場シェアが高く、安定的に稼いでくれるカテゴリ・商品を「金のなる木(cash cow)」と呼びます。

一方で、市場成長率は高いのに、自社の市場シェア率はまずまずで、「もっと頑張れよ!」と尻を叩きたくなるようなカテゴリ・商品は「問題児(Question mark)」に分類されます。

最後に、市場成長率もいけてないし、自社の市場シェア率もいけていないダメダメ領域を「負け犬(Dog)」と呼びます。

このような可視化を行うことによって、企業のフェーズに応じてどの領域のカテゴリに注力をすべきかという選択をデータに基づいて行うことができるようになります。

例えば、企業としては「金のなる木」に多くのカテゴリ・商品を着地させることが企業の安定稼働には必要ですので、まずは花形を育てて、その後市場成長率が落ち着いてきた段階で市場シェア率をキープし続けるのが王道と考えられます。

一方で、自社が金のなる木も花形も持たない場合については、問題児と負け犬がある場合には問題児から手をつけていくのが王道と考えられます。

このようにして、市場成長率という1つの軸だけで議論する場合や、相対市場シェア率という1つの軸で議論する場合よりも、2軸を掛け合わせることによってより意味のある示唆を得ることができるようになります。

ID-POSを使った分析その③: 流出・流入分析

最後にご紹介する分析手法としては流出・流入分析という分析があります。

これは特定のカテゴリ内の商品群の中について、前期間と後期間(例えば2024年1〜6月が前期間、2024年7〜12月が後期間)に分けたときに、前期間にある商品を購入していた人が後期間に同じ商品または他の商品を購入する割合を算出した表になります。

上記表の見方としては、横の①ハンイレブンと縦の②リラックスがクロスするところに書かれている値「7.4%」は後期間に①ハンイレブンを購入した人のうち、前期間に②リラックスを購入していた人の割合を表します。

つまり、同じ数字同士がクロスする青い部分が高ければ高いほど同一のブランドを継続購入していることを表すのは言わずもがなですが、あるブランドを行単位で見た時に青い部分以外の数字が大きければ、それだけ他ブランドから当該ブランドへの流入があった、と考えることができます。

このような流入分析によって、顧客がどのブランドから自社ブランドに流入してきたのか、逆に言えば自社の顧客がどのブランドに流入してしまっているのかを把握することができますし、顧客が比較をしているブランドや直接の競合となるブランドを把握することができます。

まとめ

今回の記事では書籍「ID-POSマーケティング――顧客ID付き購買データで商品・ブランド・売り場を伸ばす」を読んで、現役のデータサイエンティストがためになった内容についてまとめてみました。

本書を使ってID-POSを使ったさまざまな切り口での分析について知ることができました。

メーカーや小売店などのデータ分析を行う方はぜひ本記事を参考に、本書をご一読いただけると幸いです!

コメント

タイトルとURLをコピーしました