こんにちは!データサイエンティストの青木和也(https://twitter.com/kaizen_oni)です!
今回の記事では、生成AIを利用しようと思っている企業担当者必見の1冊『ゼロからわかる 生成AI法律入門 対話型から画像生成まで、分野別・利用場面別の課題と対策』を読んで、私が得た学び3選を紹介していきたいと思います。
企業においても活用が進んでいる生成AI。
業務効率化やサービス品質の向上など、さまざまな用途で大活躍している生成AIですが、一方で「大量のデータを学習して、出力を生成する」という性質上、各種法規制を十分に考慮しないと、権利を侵害してしまったり、法律上アウトなサービスを展開してしまうなどの事態になりかねません。
本書は、「生成AIを扱う上で、法規制の観点からどのような点に気をつければいいのか」を網羅的かつ詳細に記載している良書になります。
本記事が、本書の購入を考えている方の参考になれば幸いです!
本書の概要
主に法実務の視点から、生成AI(特に対話型AIと画像入力AI)に関連する法律や実務的トピックを幅広く紹介することを通じて、基礎的な知識から大まかな視座までを得られる入門書として企画されました。
増田雅史/輪千浩平『ゼロからわかる生成AI法律入門』(朝日新聞出版/2023) P7
本書は生成AIを利用する場合に、どのような法規制について考慮する必要があるのかを詳細に論じている書籍になります。
一口に「生成AIを利用する」と言っても、生成AIサービスを作るのか、生成AIサービスを使うのか、生成AIサービスの開発を依頼するのかなど、さまざまな立場があるかと思います。
本書においては、それらの根本に関わる「学習」「プロンプト入力」「生成AIの作成物の利用」という3つの切り口に対して、どのようなことに気をつけなければならないかを語ってくれています。
本書の章立ては次のようになっています。
Chapter 1 生成AIとは何か
- 01 生成AIの基礎知識
- 02 生成AIの種類
- 03生成AIサービスの提供形態の違い
- 04 生成AIのもたらすインパクトと課題
- 05 ビジネスでの活用事例
Chapter 2 生成AIと関係法令の概要──生成AIを利用する場合にどの法律との関係で問題が生じるのか
- 06 生成AIの利用に関係する法律の概要
- 07 著作権法と生成AI
- 08 個人情報・プライバシーと生成AI
- 09 肖像権・パブリシティ権と生成AI
- 10 商標法・意匠法と生成AI
- 11 不正競争防止法と生成AI
- 12 契約と生成AI
- 13 消費者法と生成AI
- 14 業規制と生成AI
- 15 倫理と生成AI
- 16 EU・USでの規制の動き
Chapter 3 種類別・場面別の検討ポイント
- 17 生成AIの種類別留意点
- 18 プロンプト入力場面の留意点
- 19 生成・利用場面の留意点
- 20 処理学習場面の留意点
- 21 生成AIサービス導入の検討ポイント
Chapter 4 生成AIの未来と展望
- 22 今後の展望
上記の章立ても見てお分かりいただけるように、各種法規制について網羅的に述べつつ、種類別・場面別という参照しやすい形でも注意すべきポイントをまとめている、生成AIと法律についてのリファレンスとしても非常に優秀な1冊となっています。
本書から得た学び
私が本書から得た学びは以下の3つです
- 生成AI関連で特に気を配るべき法規制
- 大量のネット上のデータを学習しているLLMは法律違反ではないの?
- 生成AIに入れたらヤバい情報3選
順を追って解説していきます。
生成AI関連で特に気を配るべき法規制
生成AIを利用するにあたって注意すべき場面は以下の3つの場面に分類することができます。
- 生成AIを学習させるとき
- 生成AIにプロンプトを入れる時
- 生成AIの出力を発信するとき
この中で、生成AIサービスの利用者側として気をつけるべきは「入力(=プロンプトを入れる)時」と「出力(を発信する)時」の2つの時点でしょう。
上記、2つの時点において特に気をつけるべき法律規制として、本書には以下の7つが挙げられています。
- 著作権法
- 個人情報保護法
- 肖像権・パブリシティ権
- 商標法・意匠法
- 不正競争防止法
- 消費者法
- 業規制
なお、業規制の中には個別具体の法律(金融規制法、弁護士法、薬事法など)が含まれているので、実質気にしなければならない法律は上記に記載してあるよりも多いです。
生成AIは非常に便利な道具である反面、万人に認められている権利を犯す可能性や生成AIサービスを享受する消費者に誤った情報を提供してしまうリスクがある点は肝に銘じねばなりません。
大量のネット上のデータを学習しているLLMは法律違反ではないの?
第2条
一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、芸術又は音楽の範囲に属するものをいう。
著作権法第2条第1項第1号
著作物は著作権法によって上記のように定められており、ネット上に存在する「思想又は感情を創作的に表現したもの」も当然のことながら著作物として認定されます。
一方で、ChatGPTなどの大規模言語モデルはネット上の膨大なデータを学習データとして、確率的に可能性の高い文章を次々と生成しているのでした。
それでは、大規模言語モデルがネット上の著作物を学習することは法律違反には当たらないのでしょうか?
結論から言うと、著作権法30条の4にある権利制限規定により、基本的には著作権侵害にはならないものと考えられています。
では、権利制限規定とは、一体どのようなものなのでしょうか?
実際の著作権法30条の4には以下のような記載があります。
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
著作権法第30条第4項
一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する言語、音、影像その他の要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。第四十七条の五第一項第二号において同じ。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物の表現についての人の知覚による認識を伴うことなく当該著作物を電子計算機による情報処理の過程における利用その他の利用(プログラムの著作物にあつては、当該著作物の電子計算機における実行を除く。)に供する場合
つまり、著作物の要件である「思想又は感情を」自分や他人が享受することを目的としない場合においては、著作物を利用できる、というのが(著作者の)権利制限規定です。
そして、生成AIの学習は第2項の情報解析にあたると考えられます。
それでは、「著作物なら何を学習させても問題ないんだ!」ということかというと、そうではありません。
権利制限規定に関する文章から、以下2点の気をつけるべき事項が浮かび上がります。
- 著作物に表現された思想又は感情を享受していないと本当に言えるのか?
- 著作権者の利益を不当に害していないか?
前者について言えば、特定の漫画家の画風を再現した生成AIを作ろうとして、その漫画家の漫画を大量に学習させるのは、「漫画家の表現上の本質的な特徴」を享受しようとしていることになるのではないでしょうか?
後者について言えば、上記のような漫画家AIを作成して、あたかもその漫画家の書いた一コマであるかのように漫画を配信する行為は、漫画家AIがなければ売れていたかもしれない漫画が売れなくなった、という漫画家の不利益を招いているのではないでしょうか?
そうなると、そもそも漫画家の画風を生成AIに学習させること自体が「著作権者の利益を害する行為」に当たるのではないでしょうか?
このように、権利制限規定によって生成AIが著作物を学習することはある程度許されていますが、許されない状況もあるということを生成AI開発者は念頭においておく必要があります。
生成AIに入れたらヤバい情報3選
最後に、生成AIにプロンプトを入力する時点で入力すると大変なことになる可能性がある情報を3つ厳選して紹介いたします。
- 個人情報
- 秘密情報
- 特定の著作物・肖像物の出力を前提としたプロンプト
順を追って解説いたします。
個人情報
私たち消費者が企業に個人情報を提供する際には、必ず企業側から「こんなことに個人情報を利用しますが、よろしいですね?」という利用目的への同意がなされています。
アンケート用紙やユーザー情報登録が画面の下のほうにあるのを誰しも見たことがあると思います。
ここで問題になってくるのが、「生成AIの学習は利用目的と言えるのか?」という観点です。
例えば、入手した個人情報を他人に売ることが目的だったり、個人情報を使って勝手にカードを契約することが目的の場合には、明らかに最初に同意した個人情報の利用目的の範疇を超えていると言えます。
「生成AI開発のために、大量のデータに紛れ込んでいた個人情報を取り込む」ことは、「個人情報を使って〇〇する」「個人情報を売る」のように個人情報を利用すること自体が目的ではないため、「個人情報の利用目的」として記載をする必要がない、という解釈が本書では紹介されています。
一方で、「個人を評価・分析する」ために個人情報を利用することについては規制が厳しくなってきているため、そのような目的の生成AIを作成する場合は、個人情報取得時の利用目的の記載に十分に注意する必要がある、とも本書には記載されています。
秘密情報
企業には「外部に漏れていないことによって効力を発揮している情報」があることをご存知でしょうか?
それは「秘密情報」という情報です。
例えば、自社の競合優位性に大きく貢献している自社独自の生産方法であったり、特許出願前の発明などは秘密情報に当たります。
前者は「営業秘密」にあたり、後者は「特許出願前の発明」に当たります。
以下の要件を満たせば、営業秘密の不正取得や営業秘密の第三者への開示を不正競争防止法によって防ぐことができます。
- 秘密管理性(秘密として管理されていること)
- 有用性(事業活動において有用な技術上または営業上の情報であること)
- 非公知性(広く知られていないこと)
逆に言えば、上記のどれかの要件を満たさなくなった瞬間に不正競争防止法の保護を受けられなくなることを意味し、「生成AIへの入力」は秘密管理性を満たさなくなる可能性があります。
「特許出願前の発明」についても、特許を受けるためには特許法上「新規性」が必要とされます。
そのため、生成AIへの入力により生成AIサービス提供事業者に特許の情報を知られてしまうことにより、「新規制」が失われてしまい特許が受けられなくなるリスクがあります。
なお、営業秘密・特許出願前の発明は生成AIサービス提供事業者とNDA(秘密保持契約)を結び、秘密保持義務を負わせることで「秘密管理性」「新規性」を失わないとする余地もあります。
特定の著作物・肖像物の出力を前提としたプロンプト
ある物が既存の著作物を侵害しているのか否かは以下2つの要素が認められるかどうかによって判断されます。
- 依拠性(既存の著作物を基に創作したこと)
- 類似性(創作的表現が同一または類似したこと)
本書においては、依拠性について以下の2つの意見が存在しているとされています。
- 既存著作物の創作的表現の本質的特徴が現れている場合は、広く依拠性が認められる
- 生成AIは既存著作物のアイデアを参考にしているだけで、仮に類似していたとしても、生成AI利用者が元著作物について認識していたかや既存著作物に似せるためのプロンプトや画像を読み込ませたかどうかなども考慮して判断すべき
依拠性については今後も検討が重ねられるものと考えられますが、これだけは言えるのは「『漫画家XX風の絵を描いて』とプロンプトを入力したり、特定の漫画家の絵を読み込ませた上で画像を生成させようとする」行為は依拠性が肯定される可能性が高い、つまり著作権侵害に当たる可能性が高いということです。
同様の議論は肖像権についても言えます。
ある特定の人物の顔を表情を変えて出力しようとして、その人物の顔写真を入力として与えた場合には、肖像権やパブリシティ権(=有名人の肖像が持つ商業的価値に基づく顧客吸引力を排他的に利用する権利)を侵害する可能性があります。
まとめ
今回の記事では、生成AIを利用しようと思っている企業担当者必見の1冊『ゼロからわかる 生成AI法律入門 対話型から画像生成まで、分野別・利用場面別の課題と対策』を読んで、私が得た学び3選を紹介してきました。
本書を読むことで、生成AIに関連した法律のうち気をつけるべき点を網羅的に学ぶことができるので、非常にコスパの良い1冊だと思っています。
他にも本記事では紹介しきれなかった「落とし穴ポイント」が本書には盛りだくさんなので、企業における生成AI利用や生成AIサービスの開発を考えている方はぜひ本書を購入してみてください!
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